コラム[ひとくち・ゆうゆう・えっせい]

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■ 医療と市場原理2007. 7.25

以前文芸春秋という雑誌の対談の中で、「経済財政諮問会議」の議長をされていた
M氏(某有名大企業の代表である)の談話には
「医療に市場原理を導入しないのはナンセンス・・・
「病者」というのは基本的にやはり弱者なのだ。お客様ではない。
社会保障制度としての視点が欠けている「センス」の人でしたね。
M氏は。それこそ「ナンセンス」

当時、小泉政権であったから「ナンセンス」とワンフレーズで確言できるのは、
或る意味で時流にかなっており(?)ナ・ル・ホ・ドとうなったものであった。

「医療行為」は、提供する側に高い倫理観を要求する。

たとえば「めまい」という症状について考えて見ましょう
ケース【1】
かかりつけの何事もよく見知った人ならば、昨夜の行動を尋ねてみて
あ〜この人は酒飲みであるから「二日酔い」か「睡眠不足」かせいぜい「カゼ」だろうということで
軽い鎮暈剤と注射で様子を見ましょうということが多い。

ケース【2】
耳鼻科の初診の患者さんであれば、眼振検査、聴力検査等、耳鼻科的な検査の末に
メニエール病或いはそれに類する病気ですヨ、ということになる。
(治療内容は【1】とほぼ同じ)

ケース【3】
脳神経科に行くと現在では最低でもCT検査、ひょっとするとMRIの検査まで行われる。
脳に異常はありませんということでこれまた治療は【1】【2】と同じ。

ケース【4】
救急病院や総合病院に行った場合、先程の【1】〜【3】くらいの
多種多様な検査や治療がなされるかもしくはなされない。
治療がなされる場合は担当医、当直医の採量で決まる。

ケース【5】
整形外科受診。自ら行かれることはないと思いますが、
結構、頸椎症によるめまいも高齢者などとても多い。
ちなみに「めまい」と言っても船酔い、車酔い程度の軽微なものからうつ病、神経症(ノイローゼ)
最悪は脳腫瘍、脳の血管障害まである。(極めてマレではあるが・・・)


上記のたった5つのケースでさえこれだけの医療行為のレパートリーがある。
ここに「利益を増やそう」という意思が入るとかなりあやしくなる。

ベテランのドクターならばこれらの軽重についてはほぼ90%わかるから
医療行為にかかる費用も手間も安いものである。
ここに市場原理という経済至上主義を取り入れたら一体どうなるのであろうか。

患者さんの選択肢は広がるかもしれないが、元々は多少医学知識のある人でも
圧倒的に経験数が少ないので謂わば失礼ながら素人である。
ただの「めまい病」か「脳の病気」かの判断はつかない。

というわけで素人的判断となれば、何から何まで検査ということになる。

医療については「脅し」というのはとても心理的効果は高いから、
これをビジネスとして取り入れれば現在の医療システムでも
そのような仕組みであるのに、そらに「市場原理」なるものを導入すれば
「医療行為」はもっと高くつくものになるに違いない。
これが私の個人的見解である。

つまり医療に市場原理は「似合わない」ということだ。

患者さんの為に、できるだけ安価に素早く確実に治療を完結したいので
その医療行為の経済的価値については、今まで考えたことはないし、
今後も考えたくない。これが私の倫理感だ。

であるから、自然に良心に従って、親切に医療行為を行って、
良い治療結果も得られて、それでも経営が立ち行かなくなったら
思い切って保険医としての医業はやめてしまおうかと思っている。
制度そのものに何かしら欠陥があるに違いないから。

そこまで、経済至上主義、市場原理主義に医療業界も介護業界も
追いつめられているような感覚がある。

日本も、今は何でもかんでも「ビジネス」だ。
いつからこうなったのだろう。
デパートやコンビニに行くのと病院に行くのはワケが違う。

追記すれば、M氏の他の発言の中には
「企業は利益を確保することだけ考えれば良く、国家や社会、
さらには雇用に対しての配慮は無用云々」
とのこと。唖然としますね。

国家の諮問機関の長たる人の発言とも思えない。
このような人物がどのようにして国家の中枢部に侵入できたのであろうか。
不思議でならない。

「人は必ず老いる、病も得る。長く生きれば人の世話にもなる」
為政者の人々は上記のようなことは恐らく自分のこととして
捉えてはいないのであろう。

年老いてお金(年金)もなく、病気の人々は一体どうして生きていくのであろう。
市場原理主義における、強者弱者、勝ち組負け組という理論の中には必ず
負け組再戦、弱者救済の考え方がいる。

このことは官僚は考えているという。

しかし治らない病気も数多くあるし、老いた人は二度と若返らない。
弱者に対する優しく暖かい目の無い「上ばかり向く」社会というものには
少し嫌悪を感じる。

いつも下を向きながら、後ろを振り返りながら前に進むのがリーダーというものではないだろうか。
それが為政者や国家であれば尚更だ。

別にカッコウをつけた「男の美学」というものではなく、普通の「人間」としての
表題への純粋な感想である。

ありがとうございました。


たくま癒やしの杜クリニック
浜田朋久

追記
国民皆保険という制度は水道や電気のように広くあまねく主等に公平に
国民に医療を行きわたらせようというシステム。
医者としても普通の個人としても維持して欲しい制度である。
参議院選挙前のエッセイでした。


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