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■ 顔創 | 2015.11.11 |
右頬の耳の前方に横4cm縦3cmほどのギザギザの創が刻印されてしまった。 今年の夏頃に鏡を見ずにT字カミソリで髭を剃っていたら、タラーッと出血したので何かと思ったら小さなイボが出来ていて、それをカットしたみたいであった。 そのまま放っておいたらその小さな出来物が少しずつ大きくなって小豆大になったので、友人の皮膚科のドクターに見せたところ首をひねっている。 「何でしょうネ」 内心ドキドキする。 「いずれにしても切除して組織を検査するしかないでしょうネ」 というところでそのまま師弟関係にある熊本市内の皮膚科形成外科で切除してもらうことになった。 こういうときは行動が早い。 さわやかな秋晴れの10月中旬の水曜日であった。 とても巧みなメスさばき、針さばきでアッという間に「手術」は終わった。 後は組織検査の結果を待つばかりである。 10月下旬の火曜日の夜、件の友人皮膚科医からメズラシク電話があり、組織検査の結果が「思わしくない」と言う報告で、できればもっと広範囲に、又深部までえぐって切除した方が良いであろうということで、木曜日の午前中にもう一度熊本の形成外科医のクリニックに赴くことになった。 今度は切除から縫合まで約1時間を要し、少し痛みまであり、片頬が腫れてしまう程大々的にオペが行われた。 電気メスの音がジーコ、ジーコと耳に聞こえ、皮膚やその下の軟部組織が強く引っ張られるのを感じる。 覚悟を決めていたものの、だんだん病人気分が出てくる。 「これはエライことになった」みたいな・・・。 計21針の縫合創が我が右頬に。 いつものように抗生物質と鎮痛剤を渡されてクリニックを辞した。 午後から休みにして帰り道には気分を変えるために映画を観た。 「ジョン・ウィック」、これは気分がさらに悪くなる。 重ねて「マイ・インターン」を観た。 こちらは感動的。 映画を観ながら人の頬ばかり見ている。 こういう習性、つまり一ヶ所が気になると他が見えないで気になる場所ばかり見てしまうのは人間の常らしい。 「(皮膚がんはリンパ節転移が多いので)頚部のCTかMRIかを受け、とられたが良いですヨ」と、また不気味なことを医師から言われ益々気分が落ちているのに気分の落ちる映画を見るとさらに悪化しそうで怖い。 ( )部分は直接発言されたワケではないけれど、そこは医者同士の暗黙知。 スッカリそんな風な病者の気分のまま組織検査がすべて出揃うまで、大袈裟に言うと判決を待つ犯罪被疑者の気分で約2週間あまりを過ごすことになった。 ヤレヤレ。 何となく右頚部のリンパ腺が気になるがCTだ、MRIだなんて面倒臭いし恐ろしい。 少し身辺整理でもしようかな、なんて神妙な気分にもなる。 心は既に半ばがん患者だ。 心が憂鬱にならない筈がない。 坑うつ剤、精神安定剤を服用しながら普通に仕事をして過ごした。 だいいち、ひょっとしてそんな風に病気になったとしても取り立ててすることがない。 貯金を全部下ろして尽蕩する程楽しいこともない。 海外旅行や「クラブ活動」やら、種々の遊び事などもってのほか、何の喜び・楽しみも自分には与えない・・・ということにあらためて気づかされ、逆に日常に普通のありきたりのこの平凡な暮らしや仕事がとても愛おしく心楽しいものであったことに気づかされ、心より病の快癒を神仏に祈ったものである。 そうこうしている内に11月4日、抜糸の日。 精密な組織検査の結果、良性ということであった。 後で切除した組織にも異常所見は全くなしとのこと。 「無罪放免ですネ」と医師に言われたときには天にも昇る気分であった。 表面は淡々としたものであったと思うけれど、その日は個人的に重大な、メモリアルデー。 またまた大袈裟に表現すると「人生が変わった」瞬間であった。 この「心の旅」が教えてくれたことは大きい。 @人の痛み、病者の心により強く寄り添うことができそうであること A日常の生活への親愛の情 B人生で何が大切か 上記のようなことをおぼろげながらでも心の中に銘記できたことが有難い。 優先順位が変化したと言っても良い。 この体験の後、お蔭様で何をしていても楽しいと感じるようになった。 仕事が暇だろうと忙しかろうと少々のトラブルがあろうと落ち込むことは無い。 この新鮮な自らの顔創をさすりながら思うことを思うままに述べてみた。 我ながら気が小さくて繊細やなあと思いつつ、だからこそ医者に向くのではないかとも思える。 少なくとも患者さんの心により近づけた。 その心配、その懸念に寄り添えるという意味で・・・。 ありがとうございました M田朋久 |