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■ 大阪ファンシートラベル | 2015.10. 4 |
伊丹空港に降り立つ飛行機の丸窓から眺める大阪の四角い箱ビルの群れは、秋の西陽に照らされて白々と輝き、まるで墓石(ぼせき)のような趣で山付きの平野に集族していた。 大阪は特に好きな街ではない。 東京と比べても緑が極端に少なく、どちらかというと殺風景な都市である。 一方、大阪を満天の星空にしてしまう程見事な夜景は、いくらか猥雑なエネルギーで満ちている現実の巨大都市とは裏腹に、漆黒のビロード布に散りばめられた宝石のように美しい。 製薬会社の招待で参加する講演会も、兵庫県の医大に通う息子に久々に会えると思うと少しく心浮き立つ。 大阪のホテルで催される医師・研究者たちの御高説も残念ながら結構退屈だ。 一介の臨床家にとっては3時間あまりの講義時間は何かの修行のようでチトキツイ。 後座の懇親会には息子もやって来て、若者らしくムシャムシャと立食いパーティーの料理をテーブルから獲物をついばんで忙しく取り皿にかぶりついていた。 その顎の動きと逞しい頚と肩が頼もしい。 筆者は一口、二口、料理を口に入れると専らウーロン茶なる奇妙な味の定番飲料をガブガブと飲み続けた。 用意されたビジネスホテルの一室で息子としばらく話をして、9時過ぎには電車に乗って帰って行った。 帰りの飛行機も全日空。 プレミアムシートA1。 軽食のサンドイッチが軽い空腹を丁度良い程度に満たす。 美しく感じの良いCAのほど良い丁寧さと距離感がとても心地良い。 土日の2日間で機内食の小さなお弁当が栄養源の全てであったけれども、久々に体調がすこぶる良い。 人間はやはり小食の方が元気なのであろうか。 軽い飢餓状態は生命力を高めるらしい。 90才の男性で、どう見ても70才にしか見えないシベリア抑留生活4年間の生還者の言では、殆んど野菜中心の食事であったそうな。コメのごはんは一度も食べたことはなかったそうである。 時には草も食べたそうで、現在もつつましい食生活をしておられると聞く。 そんな少食と息子との会話がエネルギー源になったのか久々に心楽しい大阪旅行であった。 鹿児島空港の広々とした駐車場から自分のクルマを探し出し、引き出して高速道路に乗り入れクルマを走らせていると、理由の無い幸福感がフイに心に湧き起こり、小さなパーキングに停車させハンドルに顔を伏せて静かに涙を流した。 ありがとうございました M田朋久 |