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■ 夏の終わりに | 2015. 9. 2 |
夏の終わりに はるか南海の洋上で生まれては北洋で消え去る台風のように今年の夏もあっという間に去ってしまった。 秋の初めのそぼ降る雨はいかにも寂しげで、あの真夏の灼熱の太陽をひどく懐かしがらせる。 仕事を終えて一眠りした後、入浴して下着一枚でバスタオルを首にかけベランダで、缶ビールを片手に初秋の冴えた月光を浴びていると知らぬ間に人恋しさが心に湧き起こり、なじみの夜の店に電話をかけてみた。 午後9時をまわったところで、店も暇らしく「あ〜ら先生、お久しぶり。どうぞ。空いてますヨ。おいで下さい。」などと少しの親しみと単なる営業トークの入り混じった心地の良い甘い声で応待されたものだから、一人住まいの無聊を慰めるべくいそいそとタクシーを呼んで出かけてみた。 黒のハーフパンツに白いリネンの長袖シャツに皮のサンダル。首にはチョーカーを二重に巻き、手首には革のリストバングル。 小さな角型の腕時計に度入りのサングラスというイデタチ。 何をするにもファッションにはこだわる。 今はじじいファッション雑誌も結構多く、ちょっと前までは、「チョイ悪」とか「モテ」とかで、最近は「ヤンチャ」なるコンセプトで売っている男性誌などもあって、男心を掴んでいるようだ。 いくつになっても男を「コドモ」で女は「大人」なのである。 筆者もそれらの例にたがわず、単なる自己満足でも人目にはどう映っているかは不明でも、その個人的コンセプトである「チャライ」「ラリっているっぽい」。 自分の造語「チャラリン」を目標に身づくろいをして出かけると気分も爽快で、のびのびとした開放感を味あわせる。 実際、ファッションが気分に合わないとすぐにでも帰りたくなる。 人は「カッコつけてる」とか「チャライ」とか「遊び人風」と思うかも知れないが、敢えて医者らしく見えないようコスチュームを選択している。 以前読んだ本で、医者はプライベートでも服装や態度、言動を威厳を持って礼にかなったものにしなさいというのがあって買って読んだみたけれど、息苦しくなって、なんだこんな本みたいにすぐ捨ててしまった。 仕事以外はただのオジさん、ジジイ、オヤジでいたい。 医者の威厳などプライベートでは「クソクラエ」だ。 ただ、そうは言ってもいつ何時クリニックや高齢者施設から「お呼び出し」があるかも知れず、アルコールの飲みすぎは決してしない(こちらの方がファッションがチャライよりはるかに重要と思えるけれど・・・)。 それはビール200cc(350ml缶ビール半分ほど)と焼酎かウイスキーをせいぜい20ccか30ccをチビリチビリ舐めるように味わい、後はひたすら水ばかり飲んでいると言うスタイルでここ数年間は過ごしている。 何が面白くて夜の店に出入りするのかというと歌だ。 くだらないヨタ話、エロ話やエラそうな講釈をたれて悦に入ることだ。 筆者の場合、普通の人の3倍は気を遣うのでストレスもまた3倍溜まりやすい・・・と或る手相見の方に言われて、ナルホドそうかも知れんと。 確かに夜の店でも気疲れしてしまうことがある。 厄介な性格だ。 ストレス解消の為の行動がストレスになる・・・というのは友人のゴルフ好きでシングルの男も言っていた。 そんなことをツラツラととりとめもなく考えている間にタクシーは田舎町のネオン街の真ん中に停車した。 東京なら殆ど歩く距離ではあるけれど、少しでも地元の経済浮揚(?)になればなんて自己欺瞞的な思考で罪悪感を打ち消しながら件のお店の重いドアを押して少し薄暗いチョッピリだけ高級感のある大理石のカウンターの左端の席に尻を落とした・・・いつものように・・・。 子供の時の夢がこうしてバーでタバコを喫いながら酒を飲むというもので、これは多分に西部劇でのガンマンの行動や映画・カサブランカとか石原裕次郎の映画、最近では小津安二郎の映画に感化されたもので、潜在意識の中に強い憧れとしてあって、大人になった喜び、そのような身分になった喜びというものが含まれる幼稚な感覚ながら満足感もノスタルジーも相当に得られる。 それを割りとリーズナブルな料金で楽しめると言うのは田舎住まいの有難いところではある。 何せ都会のように高級クラブなんてのが無いのは或る意味幸いである。 その店もお姉ちゃん(即ち20代の女性)は一人しかおらず、後は40代か50代の、失礼ながらハッキリ言ってオバちゃんの店であるけれども筆者からすると相当年下であるので、それなりに可愛いと感じるが、とりたてて目当ての女性とかタイプの人がいるというワケではない。 ただ女性であるというだけでホッとするものなのである。 モチロン妙な下心も無いので気楽は気楽。 ウイスキーか焼酎のグラスを左手に置いて、主に氷水をガブガブ飲みながら小一時間から30分くらい過ごして大概10時か11時には店を辞する。 帰宅すると野球ニュースの録画を観ながら食事。 野菜と果物を先に摂って魚を食べ、ごはんは食べたり食べなかったり。 最近ハマッているのが納豆入りのアイスクリーム。 普通の納豆とカップアイスクリームを皿の中で混ぜて食べる。 これは納豆の味は殆どないけれどネバネバ感とアイスの冷たさの減衰で結構おいしく感じる。 「夜の納豆は健康に良い」というのと夜の甘いもの、スイーツは血糖を上げて精神を落ち着かせる・・・という効果を狙っての行動である。 これらの行動でホントに蓄積されたストレスが解消されるのかとも思えるけれど、オートバイとかバスケとかよりもその効果は落ちると思えて、どうにも心身は楽なほうへ向かわせる。 情けないことにこれらの行動群がすべて単なる時間つぶしみたいに思えて、さらに虚無感と孤独感が心に広がることがあるけれど、それは大概アルコールを飲み過ぎた時である。 できるだけアルコール抜きの娯楽をと考えていても夏の終わりにはそこはことない心寂しさが夜間徘徊的飲酒行動を惹起してしまう・・・ようなきがする。 本当は、ベランダでのビール1本でケリをつけて、後は読書かビデオでの映画鑑賞にとどめておけば良いのだろうけど・・・。 ありがとうございました M田朋久 |