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■ 秘密主義 | 2014.10.24 |
邦画の傑作「砂の器」と「飢餓海峡」は筆者にとって最も印象深い作品であるが、その共通点はそれぞれの主人公の過去の秘匿についてのこだわりである・・・と思える。 自分の過去、それも人に知られたくない忌わしくおぞましい過去ならば隠しておきたいと思うのは誰しも抱く普通の人情であろう。 それが犯罪とか病気とかの曲々しい出来事であるならば尚更だ。 「砂の器」は松本清張の原作で映画化され大ヒットした。 ハンセン氏病(らい病)の父とその子供は父親の深い愛情とは裏腹に世間の強い白眼視と投石、からかい、排斥等いじめにあっていた状態から或る善良な警察官に救われ親切に対応され施設に入れたり養子にしたりと温かく遇してくれた、言わば恩人のような人物(警官)に過去を隠して偽りの戸籍を手に入れ全くの別人の著名な音楽家として活躍していたところをひょっこり現れたかつての親切な人間を殺してしまう。 自分の子供の妊娠と自らの殺人の秘匿とを知られた密かに付き合っていた女性をも誤って死なせてしまう。 どうやら悪事は小説の中でも連鎖するものであるようにみえる。 「飢餓海峡」は水上勉の長編。 映画は強盗と殺人犯の過去を持つ篤志家の会社社長を三國連太郎が好演している。 主人公に心を寄せるこれまた左幸子扮するどちらかというと純心可憐な女性が殺されてしまう。 他人の恐ろしい過去を「知っている」と思われることは実のところ危険なことであるのだ。 ジョン・グリシャムのリーガルサスペンス「依頼人(スーザン・サランドン主演)」、「ペリカン文書(ジュリア・ロバーツ、デンゼル・ワシントン主演)」はいずれも秘密を知ったが為にアブナイ人々に追われる羽目に陥る物語である。 ・・・であるのに他人の秘密を知りたがり、調べ「そのことを知っている」と表明してしまう人のなんと多いことか・・・。 このあたりの感性は筆者の中で割と整理されているので他人の過去とか知られたくない秘密にはできるだけ触れないようにし、語らないようにし、知らないフリと秘密を守るという方向に常に意識を向けている。 これは自分自身にも言えることで「自分のことをよく知っている」という人物にはあまり好感を持たない。 どちらかというと自分が創り上げあげたイメージを「知っている」「好きだ」という人を好む傾向にある。 要するに秘密主義なのである。 秘密を持つことが好きだし他人の秘密も容認し、それを暴いたり公表したりすることを好まない。 自分を守る為にそれ(公表すること)をすることもママあるが、好き好んでそれをするワケではない。 大義、正義、啓蒙の為である(・・・と自分では認識しているつもり・・・)。 それでも世の中には数々の考えられないような悪事・凶事が潜んでいて、警察やマスコミとかはこれらを公表・公開し未然に防ぐことを目的にもしているのでマスコミの暴露好きもあながち悪い側面ばかりではない。 しかしながら個人のプライベート、特に男女間の問題、金銭、愛情問題においてはある種の秘密主義は大人の作法ではないかと思える。 浮気中の夫、不倫の妻が帰宅してそれをありありと語るというのは、それが正直な行為でも決して勧奨できる行動ではない。 それは職場や他の公共の場でも然りであって例外は少ないと思える。 人はそれぞれ秘密を持つ。 それを守ってあげるのもひとつの有徳な行動なのである。 これらが警察沙汰、裁判沙汰、マスコミ暴露になると秘密を秘密のままにしておくことはできず、知られても知っても気まずくなる。 時には人間として醜悪な心の暗部を白日の下に晒さざるを得ない状況になりうるかも知れず、多くの善良な市民は前記した事態をできるだけ避けようとするものなのだ。 筆者の場合、たとえそれがバレバレであってもコソコソする。 理由もないのに本能的に逃げ隠れする。 仕事以外では小さな嘘をつきまくって、できるだけ自由で楽しい秘密の時間を確保しようとする。 自分がいつ、どこで、何をしているのか知られるのがイヤなのだ。 不審な行動、隠密行動が大好きなのだ。 結果、以前は外国それも遠いヨーロッパまでヒョッコリ一人で旅に出て、職業も出身もどこの馬の骨かわからない人間と思われて異国の街をコッソリとウロつくなんてことを好んでしていた。 今は体力や気力が衰えて出来なくなったのでオートバイで隣町の繁華街をあてもなくさまよう・・・なんてことをしたりする。 人口4万人にも満たない小さな町で夜の街を徘徊するなんてもう今はしたくない気分。 どこに行っても誰かに会い挨拶をする羽目になる。 それはそれで家族的で温かい人との交流があって心寂しくはないのかも知れないけれど、秋の鬱気の高まったこの時期「ひきこもる」か「知らない場所」に逃げるしかないと仕事のエネルギーを充電することはできない。 人によってはこの筆者の感覚と真逆の方向に心が向かう人もいて理解できないかも知れないがこの秘密癖、コソコソ癖はどうにもとどめられそうもない。 ありがとうございました M田朋久 |