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■ ヒナギク | 2014. 5.17 |
五月になるとデイジー(ヒナギク)という恋愛映画を観たくなる。 この作品は韓国映画で、香港のアンディー・ラウ監督の下、韓国のナチュラルビューティー、チョン・ジヒョン(実はこの女優さんの大ファンである)、相手役の殺し屋にチョン・ウソンを配しヨーロッパのオランダでオールロケというチョット国際的風に作られた秀作である。 平成18年の5月に封切られ、チョット気分が落ち込んだ時にたまたま映画館に行って気紛れに選んだ作品であり、ほんの2,3人の観客しか入っていない小さなシネコンの劇場で独りで観た。 内容はラストにヒロインのチョン・ジヒョンが死んでしまう典型的な悲恋物語で、アクション映画と純愛映画とを巧みに組み合わせた、割に凝ったプロットのサスペンス仕立ての作品になっていて結構ヒットしたらしい。 DVDもクチコミでよく売れていると聞く。 オランダの美しい草原、田舎風景とアムステルダムのロマンチックな街並みや韓国語、英語、中国語の飛び交うスタイリッシュで変化に富んだ場面構成と、映像と甘く叙情的な音楽、とりわけ韓国人女性歌手の歌う主題歌は涙を誘う。 ヒナギクの花言葉は無邪気だそうである。 暗い殺人者と無垢の純心を持った若い女性との対比が日本の五月のような明るく美しい草原の風景と雨や銃撃戦や殺人のオソロシイ場面とがうまくコントラストされ、画面全体に緊張感とスリルとを与えていた。 このあたりは北野映画・HANABIとも相通ずる出来となっている。 映画館で2回、DVDで10回くらいは観たであろうこの作品の中心はモチロン主演女優のチョン・ジヒョン。 まだあどけなさの残ったメイクの薄い今風でない、トンガってない容姿がとても可憐で愛らしい。 そのヒロインが犯罪に巻き込まれ男たちの激しく強い恋心と、言うならば男特有の身勝手な思い込みとかが絡み合って結果的にヒロインと恋敵の悲劇的な死にいたる・・・というような物語はシェイクスピアの小説を彷彿とさせる。洗練された展開ではないけれど、男女の三角関係のそれぞれ深い葛藤を描いたシーンはこの映画でもかなり工夫を凝らした撮り方になっていて観る者の心を激しく揺さぶる。 恋心というものが片想いで終われば何事もなく平穏に過ぎた筈であるのに、魔が差したように少しばかりのアプローチを試みただけで大変な結末になるというのは世の中にゴマンとあるのだ。 恋というものは実はオソロシイものなかも知れない。 世の中のあらゆるトラブルの発端に男女の恋があり、親子の愛があり、それらに伴う避けがたい確執があるのはいたしかたないものなのだ。 その2年後にこの映画をDVDで観たという最愛の女性が筆者自身の見守る中、42才の若さで逝ってしまったことと重なり、この映画にはせつない死の匂いが漂う。 そもそも菊というのはお墓に飾るものだ。 伊東佐知夫の「野菊の墓」という物語も愛する女性の死をメインテーマにしている。 雛菊(ヒナギク)、野菊、ついでにデイジーという名のスナックを一時期営んでいた高校の同級生も昨年他界した。 だんだん話が暗くなってしまったが人間の誕生と死に愛というものが必在するように深い愛の中で死ぬというのもそれ程悪くないのではないかと最近は考えるようになった。 5月の明るい陽光の下に輝く新緑の青々とした草原と幾分さびれてしまった地方の田舎町のふくいくとした生命の息吹の中に静かな死の影を思うのは筆者だけではあるまい。 雑草の中に・・・、芝生の中にひっそりと咲くヒナギクは何故か心を冷たく湿らせる。 ありがとうございました M田朋久 |