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■ 40時間 | 2013.11.21 |
以前、保健所からの指導で開業医として存在する為には、開設者(院長)が週40時間以上勤務する実態が無いとイケナイと言われ「それは営業時間でですか?」と問うたところ「そうです」との答えで、これには少々唖然としてしまった。 週40時間というと、週休2日で1日8時間以上働けということになるが、実質的に「憲法違反」ではないかと耳を疑った次第である。 商売を経営とか開業するということは、営業時間をもって労働時間とするのは基本的に間違っている。 多くの公務員の人とは異なり、お店を営むこと(経営する)ということは、それらの開店営業時間よりも、よりエネルギーを使うのはその準備であり、飲食店であれば「仕込み」であり「掃除」であり「後片付け」である。 銀行などもそうで、営業時間外の仕事の方が大変だったりするのではないだろうか。 その上、医者の場合は営業時間以外の勉強とか研修とか職員教育とか医師会の学校医検診、予防注射などのボランティア的な仕事もあり、患者さんを診るだけではない仕事が結構あるし、もっと言うならストレス解消の為の遊びや休養だって大切な「仕事」の一部であるのだ。これはあらゆる仕事人に言えることであるけれど、、、。 さらに一般の業種と異なり、入院室でもあれば、それこそ生命を預かっているワケで、その方がもしかして病状不安定や重病、危篤状態であるならばそれは又、並大抵のストレスではない・・・。 ある意味命を預かるタクシードライバーとかの仕事の人々には、超過勤務についての法律が厳しくなっていて、何時間以上働いてはイケナイなんてのもあるらしく、これまた結構困ったものだそうだ。いっぱい働いていっぱい稼ぎたい事情のある若いドライバーにとっては結構迷惑なルールであるらしい。 話しを戻すが、かかりつけの患者さんなど、概ね1,000人〜2,000人になるので、これらの方々の救急を真面目に応需していたら医者の生命はいくつあっても足りない。そもそも医者がヘトヘトに疲れ果てていたらそれこそドライバーの過労運転ではないけれど不機嫌、無愛想、不首尾、不始末などなど患者さんやスタッフにとってもロクなことはないと思える。 これらの実態に対して、さまざまな試行錯誤や、色々なアイデアを試してみて、これは看護師さんや事務スタッフと協力し、手分けして働いてもらい、多くのデスクワーク即ち書類仕事や保険請求事務、さまざまの煩雑な医療行為の周辺作業を上手にシェアして、ドクターの仕事を出来るだけ軽減して、長く営み続ける(経営していく)為の工夫をして、何とかかんとか毎日の業務をこなしているのであって、それらの工夫もそれ程カンタンなものではない。それは、かなりの経験とアイデアと長いトレーニングなどが絶妙に結実したもので、ひとつのビジネスモデルと言っても過言ではないかも知れない。 これはすべての経営者とか自営業者にも言えることであり、先生と呼ばれる職業の人々の、もしくはプロと呼ばれる人々の実情であろうと思える。 リラックスして呑気に医者をやっているようで、深いところでは皆さん陰では、大変な努力をしているワケである。 開業医は専門職と言えども、頭脳労働者であり、肉体労働者であり、マネージャーであり、ディレクターであり、プロデューサーであり、アーティスト、哲学者であり、役者、芸者、易者でもなければならない・・・と個人的には考えている。そもそも開業医院の最大の経営資源はお医者さんその人なのであるのに、そのこと自覚の足りないお医者さんご本人とかスタッフ、ステークホルダーが多いのには驚かされる。 その為に普通、医院・クリニック・診療所の開店時間には長い昼休みがとってある。 それに医者は、勤務医でいくら長時間働いても「残業代」というものは付かない。にもかかわらず「主治医」制というものが、今も道徳的、倫理的に少なくとも存する筈であるから、患者さんの為なら夜中でも、早朝でも、休日でも応需することになっていて、多くのお医者さん達はどんないい加減な人でもこれに心理的に縛られていて、それらについてお医者さん本人も、周囲の人も誰も疑わない。元々開業医というのは基本的に365日24時間完全フルタイムのお仕事なのである。大事件に携わっている警察官とか多くの仕事人にもそういう職種がいっぱい存在しているとも思えるので、ますます何時間以上働けというお上の指導が奇異に感じられる。 これらの実態を踏まえて、週40時間勤務義務はチョット乱暴な指導であるなぁと思えるのだ。チョット前に診察時間5分なんて、おバカな制度をつくられた時期があって閉口したが、一日100人の患者さんを5分診察すると丁度8時間少しになるが、現実に間段なく100人の人に会うという仕事の労働感覚を想像してみられたら、如何にそれがストレスフルかお分かりであろう。それも週40時間ー年中である。我ながら頑張ってるなあとあらためて感じる事実である。 代診のドクターとか、休日を多くするとかして自らの健康を守りつつ、他者(患者さん)の健康を守らなければならないのに、それはダメよと言われたような衝撃的指導であるのだ。40時間とは、、、。例えば同じく国家資格を持つ弁護士事務所にそのような縛りがあるのだろうか。そんなものは無いような気がする。想像だけど。 これらのことに真面目に、几帳面に取り組んで長生きできるハズがない。 このような指導が日本国憲法に抵触すると思うのは基本的人権の項目である。 人権には自由権、それも国家からの自由権があるらしい。 医療は、強く厳しく国家の規制や指導を受ける。 その医療の内容・中身については自由裁量権があるので有難いが、自由権の中でも人身の自由(奴隷的拘束からの自由)、社会権の中の生存権に抵触するような気がするのだ。たとえ奴隷的ではなくても生存権を脅かす自由権の侵害に捉えられるように思える。 考え過ぎであろうか・・・。 こんな風に書いているが、筆者が仕事をイヤイヤしていて愚痴を言っているように思われるかもしれないけれど、いつも述べているように、仕事は、ー楽しくてしようがないーのである。それもこれも患者さんや献身的に一所懸命に働いてくれるスタッフのお陰で、成り立っているので毎日毎日感謝感激の心境で働かせて戴いている。本当にありがたいことだ。 保健所や管轄機関について不満に思っているワケでもなくて、それはそういう仕事なのであるからしかたないと了解はしているつもりである。 ただ民間の小さな企業にに対して、それが医療機関というだけで営業時間ではなくて、管理責任者の労働時間を40時間以上と規定されるのが解せないと言っているのだ。10歩譲って営業時間だけ40時間ならわかるけれど責任者の労働時間については自由でよいではないかと思える。勿論何々時間以下と限定されるのも困ったものであるが。大体一般の経営者ならば社長の工夫次第では有能なナンバー2とか番頭さんがいたりして、ウィークデイにゴルフかなんか出来ると聞いている。ますます不公平やなあなんて時々思ったりするわけである。その上医療機関にはしょっちゅう指導とか監査とかもあったり配置基準とか勤務時間とかの縛りが、山のようにあっ結構息苦しい職業なんである。それで40時間と聞くと、ヤレヤレ何とも、、、、。医療という事業分野が決して自由業などではなく、限りなく公務業公益業に近い事業領域にあることは知っておきたい。 世の中にはもっともっと大変な仕事があって、文句なんか言っていたらバチが当たると思うけれども、スポーツ選手の激しい練習とか役者さんや芸人さんの厳しい稽古とかありとあらゆる職業の、本番と稽古とかについての感覚のズレみたいなモノを制度と現場実態との間に感じたので一筆してみた。お相撲さんなんかも勤務時間3秒なんてことは誰も思わないし場所中では朝から晩まで、優勝や昇進がかかった一番の前日など一睡も出来ない、、、なんて感じだったら精神的労働という意味では24時間労働と言えるかも知れない。 平成25年11月23日勤労感謝の日に向けて、、、。 ありがとうございました M田朋久 |