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■ 東京旅行 | 2013. 3.20 |
娘の就職転居を手伝うために東京に行く羽目になった。 青森の大学を出て東京で就職。九州出身なのに。不思議な娘だ。 何から何まで自分で決めて実行する。 3月1日、金曜日。午前中の仕事を終え、午後の新幹線に新八代駅から飛び乗った。 飛行機が怖いので最近は東京出張が苦手であったところ、近々全線開通した九州新幹線+東海道新幹線という素敵な交通手段があるなぁ・・・と、いつも憂鬱であった東京への旅が、どこかしらのどかでノスタルジックに思える嬉しさを憶えた。 我ながらgood ideaと得心したワケである。 元々旅行嫌い、それも特に飛行機嫌いなのである。 閉所恐怖、高所恐怖、ホームシック等々、ふるさとの山々、川、田畑、星空、馴染みの店、見知った人々から離れたくはない。 クルマやオートバイに乗れなくなる「旅」など大嫌いなのである。 それらの否定的気分を幾分軽くさせてくれるのが新幹線。 昔の飛行機(プロペラ機)並みのスピード、そして自由に歩行できる空間、飲食、途中下車も可というようにとにかく飛行機より自由度が高く、あのイヤラシイ手荷物検査も無い、墜落恐怖も無く、何と言っても電車は地面を走っているので、何かあれば停車すれば良く、今の日本では遭難するような地域も走らず、何と言っても素晴らしい居住性が有難い。 とは言っても新幹線の乗り心地は昔の型の方がよろしいようだ。 フカフカのソファーやゆったりとしたスペース等、今の新型の新幹線の無機質でペランペランの、それは軽量化の為に必要であろうけれど、以前の座り心地の良さに比べあきらかに悪化しているというのはいただけない。 まるで高速路面電車程度のシート感覚であるのだ。 これは残念である。 新幹線の居住性については、そのスピードと裏腹に進化でなく劣化・退化しているように思える。 九州の山の中から花の東京まで今や鉄路でも6時間。 松本清張原作の「張り込み」の映画版を思い出す。 野村芳太郎監督との名コンビ。 名作であるが、最も好きなシーンは東京から九州佐賀県への出張をする大木実、宮口精二扮する刑事の鉄道での旅のシーンだ。 迫力とリアリティー、当時昭和33年頃の交通機関のレベルがその風俗文化と共に興味をそそられる。その頃は東京=九州間が24時間はかかるという大旅行。今の海外旅行より時間とエネルギーがかかる。便利な世の中になったものだ。 飛行機もそうであるが「旅」は嫌いだけど「乗り物」そのものは好き。 自転車からバイク、クルマから電車、船、飛行機等、ありとあらゆる乗り物についての興味は尽きない。 大学を無事卒業した娘も22歳。 女性らしいなまめかしさをたたえた肉体と中途半端な知識、幼稚と成熟の混成された頭脳とあいまって我が娘ながら異星人のように不気味であるけれど、総じて悪い雰囲気ではない。なんと言ってもお医者の御嬢ちゃまなのである。 或る占い師によれば男を惑わす「魔性の女」だそうで、被害を受けた男性がいくらかいるかも知れない。 或る意味、そのバイタリティー、したたかさは頼もしい。 東京での「女の一人暮らし」にも寸毛も不安を感じていないようで、それこそが親としての或る種、胸底の不安を煽られる。 二人でホテルのラウンジで簡単な食事を摂り、早々に部屋で眠った。 引っ越し手続きそのものは、娘が一人でしてしまい父親のすることは何もない。朝寝を楽しみ、午後に娘の壊れたブーツを買い直し、いくらかのお小遣いを渡し、親娘で南北に別れ、東京駅発博多行の新幹線の通路側の指定席に身を沈めた。 ヤレヤレ、帰路は呑気だ。 お気に入りの本とクスリ。ウトウトと寝こけたり弁当を食べたり、本を読んだり、ボーっと客室内を眺めたり、行きかう人々をボンヤリと観察したり、切符を車掌に見せたり、窓外の景色を眺めたりしているとアッという間に家に辿り着いてしまった。 個人的には久々に本をじっくり読めたのも収穫。久々の愛娘との逢瀬も親として心配が心を覆い複雑で純粋に楽しめない。 それでも幾分活気の戻ったように見える東京。 懐かしさと不安と感傷といつもの重い心がこの東京旅行で軽くなった気がしたのは有益な読書のせいばかりではなさそうだ。 東京から博多までの5時間余り同席した、小柄で上品な初老のご婦人が博多到着時に席を立った時に「長い時間ありがとうございました」と声をかけてくれたのがさらに気分を明るくさせてくれた。 一言も言葉を交わさず、何の身振り、働きかけもしなかったのに・・・。 もともとがさつで粗野なイナカモン。それらを隠して、なるべく紳士的に身辺の片づけをし、車掌に挨拶をし、車内販売の売り子に挨拶等々し、割に慎重に礼儀正しく過ごしたことが何かしらの良いエネルギーをその方に与えていたのかも知れない。やっぱりパブリックなスペースではマナーが一番であるのだ。楽しい旅には洗練された公衆道徳は必須なのである。 「旅は道連れ、世は情け」 人生は賓客のように慎重で礼節をもって過ごすべきだそうだ。 日本人の多くからそれを多く感じるので、今回の東京旅行も色々な意味でとても勉強になった。 ありがとうございました M田朋久 |