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■ 守秘義務 | 2012. 3.21 |
これほど職業上重要な決まりは無いと思うのだけれど、何故か守秘について割と無頓着な人が居られて、色々その存在理由について説明を強いられることが立場上多く、こうして筆を執っている。 筆者の仕事は医者で、それも開業医であるので、この守秘義務については若い頃から本能的に、感覚的に敏感であり、意識して守ってきたつもりである。 患者さんについても、職員の方々についても、場合によっては取引業者についても「誰か」について語らないようにしているし、職員の人々にもこれを徹底させている。 モチロン、家族や友人に患者さんについて色々と話すことなどモッテノホカだ。 元々、個人的にも秘密主義であるので、このような感覚鋭敏さは職業遂行にも日常生活にも幸いしている。 一生秘密を持ちつづけ、墓場まで持っていく事柄が山のようにある。 時々、秘密を多く抱え込むことが苦手な方が居られるが、こういう人は医者には向かないと思える。 昔は「癌の告知」などは日常的に行われていなかったので、その人が死ぬまで嘘をつきとおすワケであるけれど、ワザワザ告知などしなくても、こういうことは自然に自分で気づいていくものである。 けれども、最後まで希望を失わないでいるという権利も患者さんといえども、人間としてキチンと持っておられるワケであるから「アナタは何年何月頃までの生命です」「治る見込みはありません」・・・などということは口が裂けても言えない・・・という感性で仕事をしている。 このような意味合いで、いわゆる「ホスピス」とか「緩和ケア」というものには強い違和感を覚える。 認識がマチガッテいるかも知れないが、それらが「死を待つ家」なんていう感じの存在であるとすれば、何だかケシカランなぁと思えるし、希望なし、つまり最初に絶望と敗北ありき・・・みたいな印象を持ってしまうからである。 医者は肉体だけでなく、精神的な側面も支えていかなければならないと常々考えているので、ホスピス的センスは持ちつつも、希望(完治するという)を持ちつつあらゆる手段を尽くすことが本来の姿勢であろうと思える。 モチロンそれぞれの人生観とか本人の意志を配慮したうえでの話であるけれど・・・。 話はそれてしまったが、原則としてあらゆる仕事において「職業上知り得た秘密を漏らしてはイケナイ」という、言わば常識があって、これは就業規則も謳っていなくても一般民法で決められていることである。 まして医者という職業においては「癌の告知」も含めてこと「秘密」についてはもう少しデリケートに取り扱うべきと思うので、さらに純度を高めるべく診察室の構造を進化させなければと考えているところだ。 言うまでもなく「秘密を守る」というのは信頼関係の基本である。 「秘密」の取り扱いにおいてはマフィアとかヤクザとか組織暴力団、その名を冠した秘密結社などは掟が厳しく「秘密」の漏洩、もしくは暴露は生命と引き替えにする覚悟を要する暴挙、愚挙(?)である。 また「秘密」を知ることも危険をともなうので、余計な好奇心でもって破滅にいたることもある。 「秘密」を、例えばインターネットでのハッキングやらで知ってしまった人とか、大変なスキャンダルになったり、生命まで狙われたりするので、明々白々、正々堂々、白日無秘などと威張っていたら、いつしか誰も何の情報もくれなくなり、モチロン秘密を打ち明けてももらえず、情断(情報断絶)になって、仕事が全くできなくなる・・・なんてこともあり得るかも知れない。 夫婦関係の信頼も、言うならば秘密の共有と厳守によって成り立っている。筆者は奥さんにも職業上の事柄についてはともかく、患者さんについては匿名であっても語らないようにしている。 ひとつには自分が恥ずかしくなるからで、ここら辺はプロ根性を出して、大袈裟に表現するなら拷問されても語らないことにしている。 もしかして爪を剥がされるとか、裸にされて電流を流されるというような拷問にあったら簡単に口を割る・・・というレベルではあるけれど。 これは警察問題についても言えることで、当然ながら患者さんの不利になる発言はできる限り差し控えるようにしている。 つまり「真実」かどうか「不明」という立場。 ズルイようだが敢えて中立的沈黙を守るようにしている。 医者はそのようなことを検証する立場ではないから・・・。 所謂「告げ口」まがいの言動、態度は絶対するべきではないと考えている。 モチロン、医者は基本的に警察に協力しなければならない職種である。だからと言って、患者さんを守るという立場を崩してはならない・・・と思える。 プライベートも、夫婦の会話などを外に漏らすようになったら、その夫婦はオシマイだ。 打ち解けた「何でも言える」関係ではなくなってしまったのだから・・・。 「内緒話」ができるからこその「夫婦」と思えるのだが・・・。 よく映画やなんかで犯罪者の妻が、夫を警察に通報する場面が時々出てくるが、このような配偶者は最悪であると思える。 いかなる時も「守ってくれる」のが真の夫婦、愛のある夫婦と思える・・・。 これは勝手な思い込みでかも知れないがが・・・。 深考すべきテーマだ。 秘密を外部に漏らす、もしくは敵に漏らす職員あるいは組織のメンバーはハッキリ言って「裏切り者」であるので、キッチリと処罰しなければならない。 一般に国際的常識では、スパイは死刑にしても良いことになっている。 何故か? 国家機密の漏洩によって多くの国民の生命が危険にさらされることになるからだ。もし、戦争状態にあるならば国家の存亡をもゆるがしかねないのだ。 これは当たり前のことだ。 最近、多くの日本人にはこういうことに無神経で鈍感な傾向があるようにみえる。 多分、平和ボケだろう。 職場や家族内で安心して会話ができる、楽しめるのはお互いの暗黙知として「守秘義務」というものが存していると考えるからだが・・・。 重ねて述べるならば、秘密を守る為には、場合によっては多くの嘘もつかなければならないということでもある。 どちら側に嘘をつくかで敵と味方の区別がつくが、多くの場合、当人も周囲の人も無意識にそのことを知っている。 自分がどちら側か・・・。 こういう場合、最も信頼できない人間はどっちつかずでフラフラしている輩だ。 所謂、二重スパイ。 自覚がないとしたら救い難い。 このような人間は普通にしていて組織でも社会でも、いずれ早晩抹殺されてしまう筈だ・・・自然に 「守秘義務には嘘が必要」ということは銘記しておきたい。 たとえは悪いが、不倫カップルなどいろいろな意味で秘密の関係であるので当然守秘と嘘がセットになっている・・・はずだ。 ありがとうございました M田朋久 |