コラム[ひとくち・ゆうゆう・えっせい]

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■ うつ病の治療について2012. 2. 4

ストレートなタイトルである。
所謂「うつ病」本がいっぱい出ていて、本屋で立ち読みしたり、買って読んだりし、又テレビの番組で特集などを見ていると「何かちがうなぁ」という印象を持つ。
やや一面的で偏狭なものもあり、現場の医者としていくらかの私見を述べたくて筆を執った。
宜しくお願いします。

治療法についての色々なアイデアは理解できる。
一定の効果はあると思えるし、それぞれの手法や理論について別にケチをつけるワケではない。
けれども、何となくこのような諸説を見聞して俄かに信じてもらっても、現役の心療内科医としては困るので、このコラムの場でいくらか単刀直入に論評してみたい。

「カラダを温めればウツは治る」。
論外である。
ただし仕事を休んで温泉に入る。
つまり湯治は良さそうである。
毎日入浴して体を清潔に保ち、リラックスするのが良いことは分かる。
確かに入眠、安眠には良い。

だからと言って「ウツが治る」というのは言い過ぎであろう。
自律神経を調整してウツ病の部分症状である自律神経失調症状を緩和してくれると言った程度ではないだろうか。
治療法として悪いアイデアではないから「しょうが湯」とか「漢方薬」とか、カラダを温める民間療法のひとつとしてリストアップしておくのも良いとは思える。

「食べ物を換えれば治る」
これも良く分かるし、かなり効果は高いと思える。
ウツ病の人の食生活は大概とても悪い。
正しい栄養の知識を身につけて健康な食生活を送ればウツは治りそうである・・・が、しかし真正のウツの人はそもそも拒食か過食か、極端な偏食とかがあって、これを治すこともかなり骨が折れる。
じゃあ、栄養点滴をしますというとこれも拒絶される方が多い。
理論理屈は理解できるが、実践となると色々と乗り越えねばならない障害が多い。
ウツ病食餌療法は、分かっていても実行が難しいという意味では糖尿病よりも厄介だったりする。

「言葉により治療する」
これはカウンセリング等の心理セラピー、心理療法のやり方の基本となるもので、カウンセラーの言葉は「外科医のメス」に相当し、治療者のたった一言で癒されたり、「崖から突き落とされる」ような、冷たく厳しい言葉もあったりし、一言で自殺しちゃったなんて話もあり、カウンセラーの先生方の言葉の使い方にはかなりの慎重さ、用心深さが要求される。

以前読んだ「職場うつの正体」という本には、職場における言葉の重大さを強調されてあったが、確かにそういう側面はある。

言葉は胸を突き刺す剣にもなり、心をとろかす甘い蜜にもなり、温かい毛布や暖炉にもなる。
デモ隊に打ち付けられる機動隊の冷たい放水にもなる。
怖いことである。
愛のある優しい言葉はウツ病にも良い・・・が、これは依存をつくり出してしまうこともある。
ただこれも、一時的、瞬間的なもので、家に帰ったら元に戻ってしまうことが多い。
とても厄介な人物がいて、言いたい放題、ヤリタイ放題でウツ病を発生させたりすることがママある。
例は少ないが「職場うつ」は時々ある。

「薬物治療」
これはかなり効果がある。
意外に安全性も高い。
クスリが「当たれば」下手な心理療法よりもはるかに効果があり、結果も良い。
一部のマスコミでは副作用ばかり喧伝するが、臨床の現場では高齢者以外にそんな印象は無い。
誠に有難くも心優しきおくすりばかりのような気がする。
お互いに何の努力も工夫もなく、心の安定と活力を得ることが出来るので有難い。
医者としては患者さんを速やかに安心させ、元気にすることが出来るので深い喜びと満足がある。

概ね90%以上の人に効果があり、通常の抗うつ剤の効果が無い場合は双極性障害(躁うつ病)、他の統合失調症、人格障害、非定形精神病などの可能性があり、他には僅かであるがただの怠業怠慢、怠惰な性格、気質、未熟な人格だったりするが、これらの見極めは心理テストや面談で簡単に判別できる。もちろん難治例もあり、それぞれに微妙な対応が必要で経験を要する。

季節の問題、環境変化の問題、特に家庭や職場での人間関係は極めて重要となる。
遊びや趣味の付き合いの場合は自由度が高いので、特別な例以外はあまり問題にはならない。
入院治療の目的は「環境」やこの人の人間関係からの一時的非難という意味合いが大きい。
また、投薬のコントロールがややチャレンジングな時には、医師や看護師の監視下に患者さんを置く必要があり、この入院治療という手段を選択することも多い。

「仮面うつ病」という病名があり、これはウツ病の精神的な症状がmask(仮面)され、主に身体症状が前面に出る疾病で、結構症例は多い。
難治性のめまい、原因不明の痛みなどCT・MRIは言うに及ばず、さまざまの「精密検査」を受けられて、半年か1年以上にかかって当科に来られる方が多い。
これらは薬物療法が良く奏功し、数日で自覚症状は取れてしまうことがある。

何だか自分が名医になったような気がするが、実際はこの病気を知っているだけなので、多くの臨床医のみならず、救急病院、大病院の勤務のドクターやナースがこの病気を「知っている」ことが望ましい。

このコラムで前記したこともあるが、あらゆる疾病において「うつ病」を配慮しておくと病因論的に病理的にも有益と思える。

というのは「精神神経免疫学」の立場からすると、心の状態は免疫状態(カラダの病気に対する抵抗力)に深く関係しており、特に短期的には普通感冒とか、長期的には悪性腫瘍とか、免疫力が発病の最大の「抵抗勢力」であるので、是非ともこの疾病はキチンと捉えておきたい。

うつ病の治療の中心は、今も昔もやはり薬物療法と精神療法(心理療法、心理教育)である。
文芸春秋に、或るマスコミで有名なお医者さんで、某大学の名誉教授でもあられる先生が「抗うつ剤ではうつは治らない」という一文を載せておられて、さまざまな外国の文献を引用して、その副作用、危険性を述べておられて、果ては自ら実践されている禅や瞑想や考え方が有効であると断じておられたが、やはり「臨床家」では無いので、個人的には全く説得力は無い。

これも微妙な問題であるが、健康人の一過性のうつ状態とうつ病は違う。いずれにせよ薬物は即効的で、要は治療についての本人とお医者さんの「考え方」次第であろう。年配のドクターの中には「甘えている」とアタマから断言されて投薬も心理療法も施用せず「お説教」に終始され、患者さんを困惑させることもある。

恐らく件の有名大先生はうつ病についての皮相的知識情報はお持ちであろうしそのようなのお立場であられると考えられるが、実際に患者さんを「診た」ことも治したことも無いのであろう・・・想像される。

このような方々がテレビや雑誌でテキトーなことを言ったり書いたりするものだから、我々は少し迷惑する。

ありがとうございました。
M田朋久


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