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■ 糖尿病時代 | 2012. 1.27 |
日本をはじめ中国、韓国、インドなどアジアの新興国で急増しているのが糖尿病である。 国民の肥満率が極めて高い米国もそうらしい。 極端に食糧の不足していた戦中戦後すぐには、殆んど無かった日本人の病気がこの糖尿病と痛風である。 いずれも肥満と同称される、所謂メタボリック症候群。 先進国から中進国で、食生活をいい加減にしていると誰もが、なり得る身近な病気である。背景には一見は便利で豊かになった現代社会とは裏腹に、意外にも適正さを欠いた毎日の「食生活の貧しさ」があり、いろいろと考えさせられる昨今の食事情がある。 糖尿病は端的に言うと典型的な「食べ過ぎ病」であると同時に、筆者なりに表現するなら「栄養摂取不適切症候群」となる。 蛋白質、糖質(炭水化物)、ビタミン、ミネラルなどの栄養の摂り方に最大の原因があることは誰もが承知していることである・・・けれども間違った知識と同時に、おいしい物をいっぱい食べたいという欲望(食欲)に負けてしまう心理的要因、コンビニや深夜スーパー、ドラッグストア、居酒屋、ファーストフード店、惣菜屋さんに代表される身近で簡便な食品供給店舗の存在等の社会的要因などなど、糖尿病発症について悪い素地が山ほどあって、栄養学の知識も適切な自制心もない人々を知らず知らずのウチにこの病に罹患させられているようだ。 もともとどんな人でも糖尿病か亜糖尿病になる可能性をその肉体に秘めていて、又それに容易になり得る環境にいることを充分に自覚しておく必要があろう。 医師会主催の糖尿病の勉強会などに行くと、いつもたいてい期待外れなのであるが、その理由と言うのが色々な最新の薬物や治療法の治療効果の薄さ、結果の悪さである。 製薬会社の出しているさまざまの新薬、インスリンなど内分泌ホルモン補充療法が主で、糖尿病の主たる原因である食事の指導法とか内容とか、少なくとも運動療法に触れたものはコメディカルの勉強会、即ち看護師や栄養士の人々を含めた勉強会や地域連携の講習会ですらあまり聞かない。 不思議なことである。 糖尿病の検査と専門医や専門医療機関への紹介や連携などを主たる啓蒙活動としているようである。言葉は悪いが、製薬会社や医療機関やその周辺で仕事をしている人々がこぞって「糖尿病」で仕事を生み出そうとしているか、利益を得ようとしているかのように見える。 それに、個人的感性では、多くの糖尿病専門病院が腎透析の設備を持っているのが少しく奇異に感じられる。 糖尿病治療の最大の目標のひとつに合併症予防というのがあるが、これの最大の病気が眼病変(糖尿病性網膜症)と腎病変(糖尿病性腎症)であるので、これらもまとめて診るというのが一見当然のように見えるが、実はこのカラクリは結構ヤバイ。 患者さんにとっての利益が守られない可能性があるのだ。 つまり糖尿病が悪化して腎透析に至った方が医療機関としては経営的に利益が上がるシステムがあるからだ。これは医者の倫理観だけが頼りであるので、考えてみれば結構怖い治療構造である。 本来、治療者としては必死になってインスリン注射や腎病変や眼病変の合併を押さえるべきであるのに、どうしても甘くなってしまうのではないだろうか。何故なら人工腎透析という有難くも悩ましい医療機械が後方に待ち構えているからである。 筆者の感覚では、糖尿病専門医と腎透析(泌尿器科)は連携して仕事をするべきであっても、「一緒」に仕事をするのはマズイ気がする。少なくとも初期の段階ではそうでなければならない・・・と思える。臨床的には本来はライバル・競争者であるべきなのではないだろうか。 医者はできるだけヤヤコシイ治療に至らないように患者さんを正しく善導すべきと思う。 その最大のものが食事指導で、今のところ糖尿病と減量法については極めて実効性の高い治療法が「炭水化物制限療法」であるが、これは所謂「専門医」の先生方には何故か不評判であり、提案に対しては概ね否定的である。 当科では敢えてこれを取り入れている結果、早くて1ヶ月、遅くても3ヶ月で糖尿病の状態は劇的に改善する。モチロン、インスリンや多くの新薬なしにである。もちろん例外はあるが・・・。 それを取り入れないというのは、糖尿病の学会とか製薬メーカーに「糖尿病を簡単に治してはイケナイ」理由があるから・・・などとあらぬ疑いまで持ってしまう。 筆者の母親は糖尿病を長く患って悪性腫瘍(胆のう癌)を併発し75才で病死した。 当時、テキストどおり、エビデンスに従って一生懸命治療を試みたが、ナカナカ血糖値も下がらずコントロール不良であった。今考えるとその最大の要因が栄養学知識のマチガイであった。当時も今も炭水化物40%〜50%という呪縛があって、これをタンパク質と野菜中心の食事に切り替えるべきだあったのだ。今も昔も炭水化物をいっぱい食していては減量も血糖コントロールもおぼつかない。 亡くなってから数年して出会ったのがこの炭水化物制限療法で、これはある経営者セミナーで偶然知ったのであるけれど、その理論も解りやすく、治療法も簡単な上に、何よりも試してみたら極めて治療効果が高かった。長く糖尿病で苦しんでおられた患者さんがみるみる治っていくのだ。他科にかかっている患者さんだと、その担当の先生から「奇跡的」だなどと患者さん自身が評されたりもしている。 当科では原則として運動療法も処方していない。 血糖の動きが乱れるし、血糖値が下がってお腹も減るのでコントロールが逆に難しくなることがあるからだ。 だいいち面倒くさい。 ごく普通の生活と食餌療法。 これだけで充分であるようだ。 別に自慢しているワケではない。 ただ、糖尿病治療の現状と実態をひろく知らしめたいという思いだけである。 多くの糖尿病の罹患者とその家族、多くの医療機関、医師、看護師は言うに及ばず、すべての人々にこれは決して余計なお世話ではなく、少なくとも実効的な「正しき論」と思えるのでここに記してみた。当然異論反論はあるであろう。いずれは患者さん個人の結果、即ち健康長命や、医学の歴史が正しい答えを出してくれるはずだ。 ありがとうございました M田朋久 |