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■ 冬のその他 | 2011. 1.17 |
冬の夜空が夏よりも美しいのは何故なんだろうか? 冷たい水中に急に飛び込んだような感覚を味わせられる、冬の夜の湿った空気にしては嫌に透明感の強い星々である。 いずれにしても美しい星を毎夜のように見ることができる田舎住まいは本当に有難いものである。 「真夏のオリオン」という日本映画、それも戦争映画の新しい作品があって、玉木宏という「野だめカンタービレ」にも出ていた拒食症のように痩せ細ってガリガリなのに奇妙に澄んだ声のイケメンの男が主人公で、人格的にも戦闘の能力も優れた日本軍の潜水艦の艦長を演じていて、米軍の駆逐艦との見事な戦闘を乗り切って無事に帰還する物語である。 タイトルの割にはハッピーエンドになっているメズラシイ日本の戦争映画である。 その映画を観てオリオン座という星座は夏のものかと思っていたらもともと冬の星座であるらしい。 星は人を詩人にするのであろうか。 冬と星は相性が良いようだ。 前記した「真夏のオリオン」のような夏の星は戦争を想起させられ、冬の星は恋を連想させてくれるような気がする。 冬に観る映画で、お勧めなのが「男と女」だ。 1966年にクロード・ルルーシュという、当時若いフランス人の監督が破産寸前で苦しまぎれに撮った低予算、超短時間で製作された作品であるが、米国のアカデミー賞(外国映画部門)とカンヌ映画祭パルムドールとゴールデン・グローブ賞と英国アカデミー賞を受賞した名作、傑作である。 予算が無いのでモノクロとカラーの映像が混在し、肩乗せの簡単なカメラで撮るシーンが多く、ニュース映画かドキュメンタリー調で、それが観客にはいたく新鮮に受け取られたらしい。 フランシス・レイの美しい音楽とあいまって、素晴らしく美しくロマンチックな映画となっている。 今観ても全く古さを感じさせないところが筆者にとっては今の映画よりもはるかに面白い。 フランシス・レイの音楽は撮影前に俳優さん達に聞かせたらしく、物語の雰囲気と監督の意図を伝えるのに一役買っており、演技指導は殆んどせずにそれぞれの俳優さんの個性と感性にまかせて撮影するらしい。 世界のクロサワと対極をなす、またちがったこだわりの監督である。 このルルーシュ監督も、この映画の成功で以後60本以上も撮ったらしいが、今でもDVD化されているのはこの「男と女」だけであるから、歴史的に勝敗を敢えて論評するなら我らが黒澤明の勝ちかも知れない。 そんなことはどちらでも良いのだけれども・・・。 この監督に言わせると「冬の寒さが恋の熱さを盛り上げる」とのお説であったが、この映画のもう一人の主人公はクルマである。 クルマのシーンがやたらに多い。 これも筆者の好みに合っている。 ひたすらクルマに乗りまくる主人公とクルマを持たず電車に乗るヒロイン。 フランス・パリの街を歩くヒロインとのコントラストがとても良い。 主人公にジャン・ルイ・トランティニャン、ヒロインに美人女優のアヌーク・エーメ。 典型的なフランス人らしい男女像で、ファッションも内面から醸し出される雰囲気もすべてフランスそのものである。 冬の恋は距離をつくる。 実際の空間的距離と冷たさの為、衣服・着衣による距離だ。 アフリカとかの熱帯地方、ハワイとかのやたらに呑気で気の抜けたような空気、熱せられた、もしくは涼やかな空気はドラマチックな恋の背景に適さないかも知れない。 恋には或る種の緊張が要るのであろう。 それは苦しみであり、葛藤であり、懊悩であり、煩悶である。 その時に空気の冷たさそれを盛り上がるとも言えなくもない。 寒さの中、お互いを暖め合い求め合う男女。 東北の女性は熱いとも聞く。 そう言えば韓流ドラマのハシリである「冬のソナタ」もその名のとおり「冬」が舞台である。 冬は熱い恋で盛り上がりましょう・・・なんて言うのは言い過ぎかも知れませんけれど、先述したルルーシュ監督でもう一本おすすめは冬季オリンピックのドキュメント映画「白い恋人達」であるが、このテーマ曲の、やはり同じフランシス・レイの音楽は今でもスキー場か何かで流されているかも知れない。 「冬のソナタ」にも使われた曲である。 冬にはスキー、雪、冬のソナタ、オリオン座、クロード・ルルーシュ、そして映画「男と女」。 この共通項は寒さと叶いにくい恋とみた。 それこそが物語としての恋の本質かも知れない。 求め合う男女に必要なものが、或る種の試練であり、困難であり、さまざまの障害であるのだ。 その厳しさの自然の表現が「冬」であるのだ。 恐らく。 易学的にも冬の位置は水であり、男女の愛であり、意外にも色で見ると黒であり、沈滞である。 そういう季節としての冬は美しい恋物語に最も適した自然環境なのではないだろうか。 だいいち、寒がっている男女は暖を求めて抱擁するであろうが、暑い夏には、それらの行為はそぐわない。 ただし灼熱地獄のような暑さでは、女性の体はヒヤリと冷たくとても心地が良いらしい・・・。 しかしこういうシチュエイションは恋になりませんネ。 ありがとうございました 濱田朋久 |