コラム[ひとくち・ゆうゆう・えっせい]

コラム:ひとくち・ゆうゆう・えっせい

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■ イタチごっこ2010.12.23

「患者さんの為になることだけをして、為にならないことは一切しない」という我がクリニックの方針であったが、そんなことをしていると「潰れてしまう」ということが最近判明して、今、早急に対策を検討中である。

純良な医療を正直に公正に明々と行って利益が上がらずどんどん赤字になるというのは、何か重大な制度上のマチガイがあるのではないかと思える。
これは昔から或る程度予測していたことであるが、まさに異常事態である。
病院は儲けるように仕事をしなければ潰れてしまうということをここに来てはじめて確信した次第である。
何と愚かでおひとよしであったのか我ながら情けない。

最近まで国家の制度というのに対して基本的に信頼しきっていただけに、何かしら底知れぬ絶望感と無力感と怒りの感覚が心中で湧き起こっている。

だいたい年金問題、小泉構造改革あたりから国の制度というものを疑ってかかるべきだったのだ。

1989年にベルリンの壁が崩されて東西冷戦が終わり、純粋な意味での社会主義国家がこの地球上から消滅してしまった今、すべての人類は経済至上主義、つまり「お金儲け」とか「利益追求」をめざして生きているように見える。
それは恥でも何でもなく正当でまっとうな人間の活動であり、そのことを上手に効率良く実現した人々を「成功者」として崇めたてまつり、尊敬し、利益優先主義に殆んど羞恥心を持たず、誰はばかることなく「お金儲けは善である」とみんなで平然と言い放つようになった。

物事の判断基準のすべてとまではいかなくてもスケール、即ちあらゆる事柄を測定する尺度として「お金」というものが頂点に君臨し、歴然とのさばっている感じである。

現代は利益を上げるのが善で、上げないのが悪。
すべからく「損は悪で得は善」なのである。
この理屈とか感覚がとうとういつのまにか医療界にも侵出して来て完全に居座ってしまった感がある。
これまでもそのような感性を持つドクターがいなかったワケでも無かったけれど・・・。
そうして富と医が常に診療報酬という保健医療制度上のエサを使って医師や医療機関を翻弄し、操り、思うようにコントロールして来た。

結果として多くの善良で純朴な医師達は物事の本質を見極めることが出来ず、さらにはモノを言わぬマイノリティーに成り下がり、報酬の減額や院外処方や薬価差益、総合的に表現するなら医療費抑制策は国の必然の如きプロパガンダをマスコミを通じて社会にじんわりと浸透させ、それがあたかも国民の総意として当然であり、既定の事実の如く装い、医療関係者も多くのムコの国民も上手に騙されて、今の事態に立ち至っているようだ。

「医療は利益を追求してはイケマセン」と言いながら、利益を追求しなくては存在できないような制度をつくり、まるで「イタチごっこ」のように追いつめては逃げられ、逃げられては追いつめみたいに制度と医療との戦いが逃げる側と逃げられる側が交互に入れ替わり、国民の健康と福祉という大前提まで無視して、医療経済活動が行われているかのように思える。
実に嘆かわしいことである。
あまり調子に乗って虐げているとロクなことはないと思うのだけれども大丈夫かなぁ・・・。

医療制度を経済人から一般国民と医療関係者の手に取り戻す為に筆者としては2つの提案というか希望がある。

まず第1に、ただ診察をしてただ簡単に治療すること、助言すること、つまり医療の基本的な医療行為に対してキチンと対価点数(診療報酬)をつけて欲しいということである。

給与で言うところの基本給みたいなものをキチンと確保して欲しいのだ。
つまり患者さんを診るだけで経営が成り立つような制度である。
「儲けよう」とか「売り上げを上げよう」などの経営努力とかなくても成り立つべきものが医療という業の本来の姿ではないだろうか。
官僚の不祥事、例えば贈収賄なども高い所得の保証によって減じられるのと同様に、医者の医療行為もその経済性について抑制的に働くのではないだろうか。
つまり、不必要且つ余計な検査や処置、手術、処方が減らせると思えるのだ。
これはあまりにも素朴なアイデアであろうか。
医療制度の点数(評価)が何かしら貪欲な方に合わせてあるようで心苦い。

第2に薬価についてである。
これは差益が無さすぎる。
今時に90%などという原価率がビジネスとして存在するであろうか。
これは院外処方への誘導の為の言訳にもなるし、説得材料にもなると思えるが入院についてはこの限りではなく、果てしなく「騙された」状態に近いと思える。

そもそも物品を使って商いを行なう場合には、その移動・管理・保管には費用が生ずるもので、その取扱者が医師や看護師や薬剤師などの有資格者であるのにこれを考慮しないのは片手落ちもいいところである。
医療を「お金儲け」の手段にさせない為には「利益を上げる」「売上を上げる」「お金を儲ける」ような活動に制限を加えればコト足りると行政は単純に考えているのであろうけれど、調子に乗って制限や抑制をかけ過ぎて、逆に「お金儲け」「売り上げ」「利益」について配慮する、つまり経済活動として医療活動をさせるように仕向けてしまっていると思えてしまう。

こういう制度が、このような醜いイタチゴッコを生むのではないだろうか。
行政、為政者も医療機関も医者も医療経営者ももう少し全く世間や国民に恥じることのない「定見」を持つべきではないかと考えている。

ありがとうございました
濱田朋久

追記:薬価差益について(納入価と売値の差)後発医薬品(ジェネリック)のそれを90%に限定するという法律もできたそうで、これは新薬開発メーカーの開発費を捻出する為の原資を確保する為、つまり値崩れを防ぐ為であるらしいが、これは新薬開発のできる大手メーカーの政府と結託した悪質な独占禁止法違反にあたるのではないだろうか。
或るメーカーについて有利に働く公定価格の設定というのは何かおかしい。
不正の臭いがする。
こんなことは誰も考えないのであろうか。
不思議で仕方がない。



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