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■ ノルウェイの森 | 2010.12.21 |
世界の大作家、村上春樹の大ヒット作。 数年間にわたってベストセラーランキングのトップに君臨しつづけたメガヒット小説である。 多分、彼の自伝であろうと思える。 主人公の一人「緑さん」は現在の彼の妻ではないだろうか。 原題はビートルズのオリジナルナンバーのタイトルで、多分台湾出身の中国人監督トラン・アン・ユンが映画化して現在公開中である。 ハッキリ言ってあまり面白くなかったあるネ。 期待してなかったので、ガッカリはしなかったけれど感動は殆んどしなかった。 画像は絵画的でとても美しかったし、日本人の出演した日本を舞台にした映画であった筈であるのに何だか外国、それもまるでちょっと前の中国の雰囲気で、出演者もまるで日本語を上手に喋る中国人のようであった。 やはり、誰か日本人の監督が撮るべきだったんじゃないだろうか。 日本人と中国人じゃ同じ東洋人でも感性が全然ちがうもの。 日本の60年代というのは、この映画のようではない。 ・・・と断言できる。 こんなに暗く重苦しくはないのだ。 もっとエネルギッシュで猥雑で、低俗で騒々しい。 モチロン村上春樹の描く世界が静謐で重苦しくマジメで正直であるのは確かであるけれど、そもそもこの重苦しさこそが村上春樹の外国での人気の秘密かも知れない。 吉本ばななも人気があるらしいけれど、両者とも少しだけどことなく日本人離れしている。 文体・文章にそこはかとない静けさと倦怠が漂っているのだ。 それを描いたとすれば、この中国人監督も見事と言える。 日本人というのは外国人の見るように奥ゆかしさとか深さがあるように見えて実は割にノーテンキで明るく、素朴で単純なのではないかと思える。 その上諸外国から見れば相当のおひとよしでもある。 政治的にも人間関係的にも駆け引きというのが殆んど出来ない。 映画はともかく「ノルウェイの森」という小説はタイトルも中身もロマンチックで好きである。 例の赤と緑の単行本も文庫本も両方2冊共に持っていて、しばらくバッグに持ち歩いて30代の頃何回か読んで、文章を真似て手紙を書いたら結構評判が良かった。 「やれやれ」とか「何だか」とか「モチロン」とか力の抜けた表現とマジメサがあって新鮮であった。 この小説で記憶している言葉に「生は死を含んでいる」みたいな表現があって、最初に読んだ時にはピンと来なかったけれども、今はよ〜く解る。 それに「愛する人を亡くした人の悲しみはどんなことでも癒やされはしない。悲しみ抜くだけ・・・」なんて言う言葉も今は分かり過ぎるほど分かる。 50代後半になって理解できる青春小説であるので、自分が発達が遅く多分に幼稚なのかも知れないが、やはり村上春樹は小説家として天才なのかも知れない。 色々経験を積んでしか理解できないことを「見ている」ワケであるから・・・。 見とおしていると言っても良いであろう。 また若い時に相当に深い傷を負ったのかも知れない。 その鋭い観察力と率直ながら巧みな表現力はやはり稀有なものであろう。 残念ながら筆者の読んだ村上春樹は「ノルウェイの森」だけである。 「海辺のカフカ」とか「・・・ワンダーランド」とか地下鉄サリン事件を扱ったノンフィクションとか、買ってはみたモノの面白くなくて途中で放棄してしまった。 文章そのものは楽しめるけれども、どうしても感情移入ができないのだ。 彼との筆者の感性のひらきは相当に広幅であるらしい。 ただ小説の「ノルウェイの森」は抒情的で、内面的で暗欝で面白かった。 恋愛小説、青春小説、そして私小説の傑作かも知れない。 特に好きなのは導入部である。 ドイツのハンブルク空港に降り立つ着陸準備に入った飛行機の中のBGMの『ノルウェイの森』からの回想で始まるのだからシビレル。 実に映画的な導入のイントロにふさわしい部分で名シーンであると思うので、このまま映画化してくれたら良かったのに・・・と思う。 筆者の観た作品の中で同じくらい面白いと思ったのは「ゴッドファーザー」と「赤毛のアン」くらいであるが、これらの作品は原作をそのまんまトレースして映画を作っているというのが特徴である。 個人の解釈など捨て去って、単純にそのまま映画にして欲しかったなぁ・・・僕としては・・・ 残念。 映画「ノルウェイの森」は芸術作品としては結構の出来だったかも知れない。 しかし、感動の無い映像美だけというものも少し淋しいあるネ。 @モチロン心象描写なども優れていると思えたが、普通映画は小説を越えられないのであくまで参照作品にとどめておいた方が良い作品になるのではないかと思える。 A現実が想像を越えることができない以上、原作と映画の関係については名作ほど難しいのであろう。 なにせ20年も映画化されなかったくらいであるから・・・。 B映像も音楽も原作を解釈するそれぞれの読者のアタマの中までは届かない。 C結構イケテル作品ではあったけれども、逆に映画の限界を見せつけられた作品でもあった。 Dお疲れ様でした。 追記 それにしても若い人が多く出る作品でありましたネ。 まず、主人公の幼なじみ18才で死に、恋人が21才で死に、先輩の彼女が20代で死に、ついでに寮の同室の男が理由もなく主人公の前からコツ然と消え去った。 愛と生と死とSEXと読書と言葉を好む主人公と、とにかく文学オタクには応えられない名作であるが、映画オタクには多分受けなかったであろう。 だって感動したくて観に行くのだもの。 何だかストラビンスキーみたいに難解なクラシック音楽のような映画であった。 ありがとうございました 濱田朋久 |