コラム[ひとくち・ゆうゆう・えっせい]

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■ 医者と経営者2010.11.23

内科の開業医になってほぼ30年になろうとしているが、開業医の仕事は見た目よりもハードであり、多才な能力を要求される。
野球で言うと投手も捕手も野手も監督もできるオールラウンドプレイヤーであることが望ましい。

仕事の呼称としては、所謂「専門職」となっているが、内実は「経営者」とうより「労働者」に近い。
丁度、床屋さん・理美容師に似ている仕事なのだ。
一人一人の患者さんを順番に最後まで診ていかなければならない。
話しを聞き、診察をし、必要があれば検査をし、治療をする。
時に慰めたり説明したりもする。
その一連の作業をナースやクラークなどのスタッフと協同して行うのが医療行為と呼ばれる、言うならば労働行為なのである。

職業的に専門性は理美容師に似ており、精神心理的には水商売に似ている。
共感する、慰める、優しくするというのも大事な仕事の要素になるからである。

その上に診断の技術、検査の技術、専門知識と一般常識、治療の技術も要し、そこにはスピードと正確さ、丁寧さ、優しさも必要とされる。
分解してみると結構複雑な作業なのである。

ビジネスとしてはお客さん商売であるから、多くの患者さん(お客さん)を集めなければならない。
売り上げというのは客数×単価であるから、保険医療の場合、正直に普通にしていると、つまり余計な検査をしないでいると一人当たりの単価は公定価格になっているのでどんどん下がっていく仕組みになっている。
その上すぐに治してしまう医者だと評判は良くなって患者さんは増えるが、商売的に見ると治らない方が継続的に長く通院してくれるので売り上げは上がる。
これは医療経済上の大きな矛盾点である。

ある専門医の場合、ワザと治らないクスリを出して、長く通院させるということを堂々とやってのけ、売り上げを獲得しているが、地元の患者さんの評判は上々で何とも開いた口が塞がらないが、そのお医者さんを正面切って避難する気にもなれない。

これは制度上の問題で、医者の倫理に値段が付けられないシステムなので、当然起こり得る現象である。

今のビジネス社会では倫理性が高いということが必ずしも利益につながらないことがママあるが、その典型的業種が医療業界ではなかろうか。
医療制度というのは「医者は悪いことをしない善人ですヨ」という前提と「油断するとすぐ悪いことをしますヨ」という人間の性質の二面性、即ち性悪説と性善説とを上手に使い分けている筈だと信じているのが我が国の為政者、特に役人達、官僚達の大方の見識であろう。
これは全ての業種の監督官庁としてそのような対応をしているように見えるが、いかがであろうか。
医療という業を経営者的に行うと、どうしても非倫理的になってしまう傾向が出てくると考えられる

つまり客単価を上げる為に多くの余計な検査や手術や処置をし、薬剤については薬価差益を失くす方針が近年どんどん強くなって薬剤による利益は殆んど出なくなったので、さらにこの傾向に拍車がかかっている感がある。
そうして「早く治さない」という方針もあるかも知れない。
3ケ月で治すか3日で治すのではその利益に大きなちがいが出ることは子供でも理解できる。

このような理由で開業医というのは、それがマトモな精神を持っている医者であれば「利益を出す」ということと、医者として正しく正直であること、つまり「倫理的である」ということについて当然ながらジレンマを持つ筈であるからこのあたりについては多くのドクターはこの矛盾を曖昧なままにしているが、だんだん馴れてきて倫理観を麻痺させるかして何とか医者と経営者の2つの顔を上手に(?)に使い分けていると思える。

深く考えると精神的には大変なことである。

あまりマジメな医者、完璧主義な人は開業医には向かない。

重い患者を一般開業医が診るのもあまり良いことではない。
完全に経済性を無視できる(本当はちがうけれども・・・)純粋な公的医療機関(今の制度では自然にしていて完全に赤字になる筈である)に搬送して診てもらう方がはるかに親切であろう。

このような背景や矛盾を抱えている医療業界に純然たる経済至上主義を持ち込むのは大変危険なことである・・・ことは誰もが承知しておくべきことであろう・・・。

「医者」と「経営者」は以上のような理由で両立しないと考えた方がよろしいと思える。
医者は「経営者」ができるほど暇ではなく、そのことに常態的であることも倫理的に問題があるし、「専門性の強い労働者」という側面がどうしてもあるからである。

それでは医院経営、病院経営に上手に携わろうとするなら、経営者が「医者じゃない方が良い」という考え方もあるらしいがこれも問題がある。

多くの医者はプライドが高く、世間知らずで勉学以外に苦労人ではないことが多いので、人に使われること、特に素人に使われることを極端に嫌う傾向があるからだ。
また素人(医者でない人々)もまた医者のこの特質、性質を見抜いてないことが多い。

結果的に医者が医療経営をするのが自然であるが、医者が経営者である為には医者の仕事を出来るだけ減らし、経営をその倫理観と商売感覚をうまくバランスを取りながら社会の動きや行政の動向を見ながら仕事をしていくしかないが、つきつめれば今の医療制度上の問題が解決されない以上、永遠に医の倫理と商売としてのベクトルの矛盾を抱えながら医業をしていくしかないのである。

筆者の理想とする医療制度のカタチは極めて単純で、法律的に「医療行為で利益を上げていけない」と謳ってある以上、公務員のように所得をキチンと保証された状態で、自由に倫理的純粋に患者さんの為に医療行為を行い、その身分と所得を保障されるというものであるが、医療サービスの向上は望めないかも知れない。
それは質の向上の為に絶対必要な競争が無いからである。

質の高い医療、即ち「早く安く上手に治してくれる」医者か、利益を上げるシステムというものが存在すれば良いのであるが、これを全国にまんべんなく実現する為には小規模の、丁度コンビニエンスストアのチェーン展開のように多店舗化するしかないと考えている。
何故ならそこまでしないと社会も行政もマスコミも今の制度に安住して全然制度的に進化しないだろうと思えるからである。

この考え方は、医者の側にも患者さんからの側にも有為且つ倫理的であると思えるのであるがいかがであろうか。

全国に700あまりの市があるそうであるが、筆者の夢はその全市にこの理想のクリニック「早く、安く、安全に、親切に、優しく、正しく医療を提供し、人々の健康と幸福へ貢献する」というもので、医者も全て良心の呵責がなく、妙な利益誘導も考えなくて良く、患者さんもそのことに充分な信頼を寄せるというものである。

夢物語なのかもしれない。

何かしら今は制度に踊らされて右往左往している多くの開業ドクターの姿が目に浮かぶようである。

ありがとうございました
濱田朋久


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