コラム[ひとくち・ゆうゆう・えっせい]

コラム:ひとくち・ゆうゆう・えっせい

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■ 不快適のすすめ2009.12.28

ヨーロッパ行きの国際線の飛行機の機内は客室の窓を全部閉め切ってあるので丁度映画館の劇場内ほどの明るさであったが、客室後部のトイレの側の小窓のブラインドシャッターを、少しだけ持ち上げて見る機外は早朝の太陽に照らされて殆んど純白に光輝く雲海とコバルトブルーの透明で澄み切った空であった。轟音と共に銀色に光る流線型のジェットエンジンの吐き出す、白い飛行機雲の激流は、まるで間近に見る巨大な白滝のようで、その圧倒的名美しさに見とれていると、白人のキャビンアテンダントが近づいてきて、しばらく一緒に眺めてくれたけれど、静かに優しい仕草でブラインドを降ろすように両手で指示をした。
ほぼ満席に埋まった、英国航空のエコノミークラスの機内は薄明りの中で小さ目の倉庫に詰め込まれた乗客は大人しい家畜のように、思い思いの寝姿で、それぞれ眠っている風であった。
自分としてはまるで養鶏場のブロイラーか養豚場のブタになったような気分であるが、空腹だと眠れないので、睡眠薬と満腹とでようやく得られる、割に心地良い"船旅"のソレのような眠りでアッっという間に目的地に着くという次第である。

どうせ眠ってばかりいるのだし、酒や御馳走にも興味がないのでビジネスクラスとかファーストクラスに乗りたいとは思わない。これは負け惜しみではなく、真実の気持ちである。
一度でもそういうモノに馴れると、エコノミーとか乗れなくなりそうだし、何かと不便である。

テレビショッピングで殆んど無反発のとても快適そうな寝具の宣伝をしていて、思わず注文しそうになったけれど、これまたこの寝具なしでは眠れなくなったらコトである。
筆者の強みのひとつに「どこでも眠れる」というのがあって、クルマの中はモチロン、ホテルの床や(ベッドではない)コタツの脇、道路、芝生、玄関、診察室の椅子、電車の中と時と場所を選ばず、寝こけることができるけれども、夜のチャンとした睡眠だけは睡眠薬のお世話にならないと眠れない。これは多分子供の時のトラウマが原因で、酒乱の父と気の強い母の間で起こる夜中の騒動と、時々巻き添えを喰って、自分にその攻撃のホコ先が向けられて、夜はオチオチ眠れるモノではないという「習慣づけ」が出来た為である・・・と考えている。
便利な生活の落とし穴というものの最大のものは、惰落と衰弱であると思える。

宇宙飛行士が宇宙に出て、その無重力状態で長く過ごすと、地球に帰って来た時にはフラフラ立って歩けないばかりか、骨とか筋肉が弱って回復するのに結構手間も時間もかかると聞く。
今では宇宙飛行士もワザワザ毎日の筋トレは欠かせないものらしく、逆に面倒くさいことはなはだしい。
普通に仕事をして、家事やら通勤やらをしているだけでも、私達は地球の引力(重力)のおかげでソコソコの筋力、骨力、心肺機能を維持できるようだ。
モチロン更に運動やらウォーキングやらジムやら筋トレやらで鍛えたらもっと健康上よろしいであろう。

今はクルマ社会であるから、人々は歩くことが少なくなり、これまた健康の為にワザワザ「ウォーキング」とかで一生懸命、歩いておられるのを見ると、便利な生活のツケというものが結構深刻なものに思える。

たとえば山仕事とか、昔ながらの農作業とかせざるを得ない職業の人々にとって、都会のアスファルトやコンクリート上のウォーキングなどは逆に膝や腰を痛めるかもしれない。

筆者の職業上の経験では小柄でニコやかな林業関係の男性が最も若々しく、今で言う後期高齢者の正中にある75才〜85才でも、青年のように若々しい人がいて週に1〜2回のSEXもなさっておられる方もいた。
この場合夫人が更年期を過ぎた頃から、夫の要求を嫌がる人がいてその調整に苦労したことが何度かあるくらいである。

いずれにしても、便利な生活、怠惰な生活には気をつけたい。
快適な暮らしも逆に不平不満を生む。ご存知のように人間の欲望は限りがないもので、「もっともっと」とどこかの弁当屋の名称みたいに酷く貪欲になって、折角の快適な暮らしをもっと堕落にするべくお金とエネルギーを費やして、何の恐れも羞恥心も持たない方も多いようだ。

「不自由を常と思えば・・・」徳川家康の言葉であるが、どちらかというと不便で、不自由で面倒くさい生活の方が人間を適度に鍛錬してくれて人生にも健康にも良いのではないかと時々考えている。
そういう意味では、先述したようなエコノミークラスでの窮屈でチョットした工夫のいる「旅」とか、オートバイでの旅行とか山登りとか、お金や正月でのクルマの大移動というものも、あながち悪いものではない気がする。

少なくとも安楽ではないという意味で・・・。
人間は何にでも馴れる。安楽にも繁忙にも閑にも多忙にも。どちらかというと苦痛な方に馴れた方が、つまり不快適になれた方がそれが強みになり、恐れを持たない分、心やカラダに良いような気がする。

ありがとうございました。

濱田朋久


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