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■ 健康への道 | 2009.12.28 |
文芸春秋の特集号で「健康への道」という一冊を手にした。この号に先立つこと「アンチエイジング」特集とか「老いについて」とかの人間の老化とか健康の本とか、最も読みたくないジャンルの雑誌であるが、職業柄ガマンして読むようにしている。 とりあえず、読んでみると、結構面白い為にもなるが、だんだんそれでも息苦しくなってくる。人生がドンドン重たくなるような気がしてくる。それはそうだろう。自分の肉体の例えば目とか鼻とか、髪の毛とか歯とか足腰とか、性欲とか胃腸の調子とかヤヤコシイ病気とかについて自分自身のソレを意識してしまうからである。 一般の人々や医家を問わず病気の話しなど読みたくもないものだ。余程いつも読みなれた医学雑誌や専門書の方が気分は軽い。何故なら後者は中身がややコムヅカシクて学究的でも、所詮、他人事、科学知識、医学知識であるので、読み物としては比較的気軽である。 ところが、実際に治療にあたる時にはこの「素人向けの本」がデマカセも多い分、役に立つ情報も盛り沢山である。 「素人本」か「専門書」かとなると、どちらも、読むべきというのが専門家の理想と日頃から考えているので、これまた専門書を読むようにボールペンで線を引きながら読んでいくという次第である。 あ〜あ、それにしても、早くバイク本や映画本や、メンズファッション雑誌を読みたい。小説も読みたいし、映画も観たいし、寝酒もゆっくり飲みたい・・・というのをまずは我慢して、コラムをせっせっと書いている自分は一体、何の為の行為であろうか。 やっぱり世の為人の為かなぁ。子供達の為だ。自分の親爺がどんなコトを考えて生きて来たのか知らせねばならないと、また心を取り直して、誘惑を振り払って書きつづけている。 話しがそれてしまったが、この健康志向の中身というのが、現代医療のトピックスと、著名人、有名人の健康法紹介とか「老い」や病や健康についての考え方捉え方がどちらかというと、とりとめもなく書き連ねてあるのを読んでいると、確かに参考にはなるし、情報取りとして良いかも知れないが、この手の本はどうもココロやカラダには何となく良くないような気がする。 何故というに、「健康」という言葉の対極に、「病気」という言葉が対比されて、出てくるし、「老い」というものの中に「若さの喪失」という悲しみも含まれていて、何ともセツナイ思いに駆られる。 「上手に老いて、上手に死ぬ」方法を考える方が、郷ひろみの整形美とか、石田純一のボッチャン風若造り過ぎオジ様みたいな奇妙な存在よりも、ずっと素敵な生き方に思える。 あのとんでもなく若く美しい永遠の美女吉永小百合さんよりも、 昨年秋に42才で、老いの兆しが出たと思った瞬間に、喘息発作で夭逝したとても純真な心を持った、知人の素敵な女性の方が、はるかに「美しい生き方」に思える。酒やタバコを好きなだけ飲んで楽しくいきいきと生きた彼の人にはいくらかの羨望とか嫉妬さえ憶えるくらいだ。若さも健康も素晴らしいものであろうけれど。 「美しい人生」とは無関係な気もする。腐った精神で長生きするより、美しく散った方が潔いように思うけれども、これはもう仕事柄、決っして他の人には勧められない・・・けれども、それぞれの考え方でそれぞれに生きれば良いワケで、今、流行の健康志向とかアンチエイジングクリニック群には何となく、心の底では反発も感じてしまう。日本人の遺伝子「武士道とは死ぬことと見つけたり」なのか、それとも帝国陸軍の士官学校の時代に終戦を迎え生き残りとして大酒飲みの医者となって、50才で早逝した父親の遺伝子か、健康とか生への執着とかへの或る種の嫌悪感みたいなものがそうさせるのか、今のところ不明である。 この「健康への道」を何となく購入してしまったのも実はこの中に「医者がすすめる人生後半に役立つ本」として東大名誉教授の大井玄先生のおすすめ本紹介の中に筆者の愛読書があったからかも知れない。 「それでも、あなたの道を行け」ジョセフ・ブルチャック編。 インディアンの言葉を集めたものであるが、この表紙のインディアンの若者の表情がとても美しい。 それは、まさしく、特攻記念館で見た、出撃前の英雄達の顔と全く正一したもので、死を殆んど全く恐れないインディアンの潔さが、マザマザと映る人間の表情と思える。 この本には「今日は天気。死ぬのに良い日だ」とかあって衝撃を受けたものである。 インディアンと日本人とは共通の先祖を持っているのだろうか。 筆者の友人のインディアンは、良く筆者に祈りを捧げてくれたが、この言葉のリズムと韻が、所謂神道の祝誌殆んど同じであった。 いずれにしても、「生きていく」というのは何らかの醜さを秘めているようで「ぶざま」であるとか「カッコウ悪さ」とか「しぶとさ」とかを要するようで、あまりにも自分の美学にこだわっていると「長生き」も「健康」も得られないような気がする。 最後に、このジョセフ・ブルチャックの書からの抜粋でしめくくりたい。 「いちばん重要な、最初の平和は、人の魂の中に生まれる。人間が宇宙やそのすべての力とのあいだに、つながりや一体感を見い出せたとき、その平和が生まれるのだ。宇宙の中心にはワカンタンカが住まい、しかもこの中心はいたるところにあって、それはわしらひとりひとりの内部にもある、と理解しときな。」 これらの美しい詩句を読みながら思うのは、どうやら生や若さや健康に執着することは、老いや病や死に対する、「恐れ」を生じさせるようであるので、まずはこれらすべてを恐れないで、私達人間も宇宙や悠久の時間と一体であるという確信と、それによって生じる心の平和の中に生きることこそ、より良き人生を生きる為に最も楽で楽しい考え方ではないだろうか。 ありがとうございました。 濱田朋久 |