コラム[ひとくち・ゆうゆう・えっせい]

コラム:ひとくち・ゆうゆう・えっせい

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■ バイクと遊ぶ初冬の夜に2009.11.24

今日は朝から救急車が来て、税務署が来て、ついでに夕方は銀行の人も来てまさに千客万来(?)であったが、昼寝と夕寝と2度仮眠を取れたせいか意外に元気で、天気予報も晴れ、降水確率10%、気温13℃とまずまずのバイク日和。
スッカリ日の暮れた闇夜の晩にわが愛車、ヤマハのMT01・1700cc黄色に塗り替えたばかりの鉄の馬にまたがった。

前々日に手に入れた黒のレザーに派手派手しくロゴをあしらったライダージャケット、黒のレザーパンツ、それにライダー用のシューズを軽く慣らすつもりで初冬の夜へ少し緊張気味にバイクをすべり込ませた。
めざすはなじみの「カプリチョーザ」という名のイタリア料理店。
メニューはいつものニンニクとトマトのスパゲティー。
空き腹と寒さと疲労の滲んだ肉体を酷使するのには少し気がひけるが、このささやかな冒険欲は去年と同じく生の喜びをスリルに感応したノルアドレナリンで脳髄を痺れさせるべく思い切りスロットルを開けたアリ閉めたりしながら落ち葉で少しロマンチックになった国道をひた走った。

盆地から平野の町に抜けるには高速道路か、川沿いの沿岸道路か、山越えのワインディングロードかの概ね3通りである。
当然ここは凍結の可能性のある山路や、少し乱暴に運転される商用車や家路を急ぐマイカーが高速道路を避けて切り立った山を北方へ緩やかに下る沿岸道路を選んだ。

片道約60K。
寂しい山道を単身の前照灯の光を頼りにソロソロと走り始めた。
暗い黒灰色の重い曇天に月は無く殆ど闇夜だ。

白々としたガードレールや時々出現するまさしく銀色の象と呼べるトレーラーや普通トラックの連列を縫いながら一路川下りの平野に向けて西部大平原のカウボーイよろしく鉄製の愛馬を駆った。

V型2気筒、所謂Vツインの巨大なエンジンが独特のドッドッドッと全身を強くふるわせながら嬉しそうに路面を漕いで行く。

ヤレヤレ御苦労なことだ。
11月も中旬ともなれば外気は結構な冷え込みだ。
厚いライダースジャケットも隙間を突いて冷気が体に染み込んでくる。
常識的な人達ならば夕方は炬燵でビールを飲みながらテレビを見て家族との団欒か、たとえ一人暮らしでもこんなバカげた意味の無い行動をすることはあるまい。
少し子供じみた行動とは知りつつ夜のバイク乗りはやめられない。

丹念に路面を見つめながら転倒や衝突や、ケガや死を恐れながら走っているとさまざまな思い脳裏をよぎっていく。

夜の山の自然の中でこの生身の人間を乗せているこの鉄製の二輪の生き物の何とも頼もしくもあり、心細いことか。
生命を預けるには少し冒険的過ぎると思える。
スリルというものの或る種生命がけの興奮にはやはり麻薬的な快楽が潜んでいるような気がする。

この世で最も快楽の感覚に満ちた柔らかく甘い女の肉体よりも、半身を痺れさせる酒の酔いよりも、舌をとろかすおいしい御馳走よりも、この苦痛と寒さと飢えともしかして死の危険も孕んだ、言うならば愚行とも呼べる行動を標準的な大人ならば当然避けるような選択をどうして自分がしてしまうのが本当のところワカラナイ。
「死にたい」のであろうか?と自問してみる。
否だ。
無事に帰って来て熱いシャワーを浴びて一杯やりたいのか。
ただ単にオートバイが好きなのであろうか。
何かがオートバイという乗り物にはあるような気がする。
同じ道を同じバイクで同じように走っても、車のように精神と肉体のコンディション、空気の湿り気や、風や気温や、雲や匂いや月光や、他のクルマやトラックや色々な要件が混ざり合って一度として同じ感覚は得られない。

多くのバイク仲間の言うとおり、それはやはり「女のカラダ」に近い。
そうなるとクルマは母親か父親だ。
そしてそれは安心と安定と安全を提供してくれる暖かく快適なマイホームだ。
そして時には秘密の動く書斎になる。

一方オートバイは完全な「乗り物」だ。
寒さや暑さなどの自然と格闘し、路面やガードレールや急角度のコーナーや他の走行物(車やトラック)や電柱や人との厳しい対局がある。
自動車のように身を守るのは自己の運転技術と注意深さと集中力だけだ。
激しい目の動きは多くの危険の徴候やわずかな兆しを見逃すまい。まるで野生の豹や虎のように鋭くカッと見開かれるが、逆に半眼で構える真剣勝負の武士のように抜かりなく前方や周囲を注視する。

それはまさしく冒険なのだ。
大袈裟に言えば拳闘家か闘牛士か。
いずれにしても夜の大平原を馬で往くインディアンかカウボーイのような気分になれる。
これは結構ゴキゲンな心持ちである。

途中で飲んだ缶コーヒーのカフェインが効いたのか、ますます走る快楽か乗馬のそれに似てくる。

アッという間に目的地に着いた。
モクモクとパスタとサラダを頬ばり、水を飲んで帰路に着いた。
シャワーを浴びてリンゴを食べながらオンザロックのウィスキーを飲み、本を読み睡眠薬を飲んで映画を観て床に就いた。

何というシアワセな一日だ。
仕事をしてバイクに乗り、本を読み酒を飲んで映画を観る。
家族との団欒も良いけれど、こんな孤独な遊びでも時には精神のエネルギー充電には良いかも知れない。

ありがとうございました
濱田朋久


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