| [戻る] |
| ■ マーニー | 2009. 6.11 |
巨匠アルフレッド・ヒッチコックの作品で、主演にはあの００７のショーン・コネリーを迎え、ヒロインにはメラニー・グリフィスという可愛い子ちゃん系の女優さん（もう年ですけど）の母君で同監督の「鳥」というサスペンス映画に出演していたティッピ・ヘドレンという美人女優を配して描かれたサイコサスペンスドラマの傑作である。 この作品は、心療内科の医者にとっては結構参考になる興味深いストーリーの映画である。 物語は心に深い傷を持った虚言癖のある女泥棒のティッピ・ヘドレンに惚れてしまったショーン・コネリー扮する会社社長が、その素晴らしい知性と包容力と厳しくも優しい「愛の力」で無理矢理に我が妻としてその彼女の心癒やしていくというものであるが、もしかしてこの主人公のカッコヨサはあのジェームス・ボンドをも凌ぐのではないかと思える程である。 ＰＴＳＤ（心的外傷後ストレス障害）という疾病は最近になって取り沙汰されることが多くなったが、本来は昔からあるもので大災害とか戦争とか激しい家庭内暴力とかでなくても、多くの精神的疾患や心の病の背景に普遍的に存するという考え方である。 かの有名な精神分析の大家、ジグムント・フロイト大先生ですらこの立場をとっているらしい。 この映画のヒロインは、赤い色に強烈な恐怖を再体験をし、また男性に対する激しい嫌悪感や抵抗を示すのであるが、ヘタな精神科医や心理カウンセラーよりも高度な技術と知性でもって彼女を保護し、忍耐強く治療・癒やしにもっていくサマはナカナカ見応えがあるし、とても参考になるものである。 それも薬物なしの治療であるから流石に映画であるなぁと思えるが、治療理論としては殆んどマチガイがなく全くの素人としてこの映画を観せられても、少しも違和感なく受け入れられ、かなり感動的ですらある。 このような治療態度とか行動とかを見ると大したものと思えるが、それはそのＰＴＳＤの女性を愛妻として「心の治療」をするという自由度はあるもののその難治性とか厄介さを思えば、この主人公（ショーン・コネリー）の洞察力たるやナカナカどうして立派なものである。 具体的には、その心的外傷をひき起した出来事を多少強引に思い出させ、言語化し理解させるという方法を取るワケであるが、これは専門家でもナカナカ勇気のいることであるし、困難なものである。 このヒロインの女性の心的外傷というのは、事情があって私生児を産み、その子供への愛のために売春婦であった母親が、愛する子供を守る為に誤って男を殺してしまい（実は実際に殺したのは子供、つまりヒロインである）、その時に見た血の色の「赤」に反応し、また繰り返し母親を通して与えられた「洗脳」に近い「幼児決断」、つまり男というものを不浄なもの、危険なもの、嫌悪すべきものというような強い「思い込み」を持つに至った・・・というものであるが、ナルホド女性の犯罪者の生い立ちとしては少しの矛盾もなくスンナリ受け入れられる物語ではある。 通常はこのような心的外傷、即ちトラウマというものはこの映画のようには簡単には取り去ることはできない。 ほとんど一生涯この心の「枠組み」をひきずって、相変わらず泥棒稼業と嘘つきと男性不信を心に抱えながら悲惨な人生を送るのが一般的であるようだ。 そこはそこ、やはり映画ではある。 愛と感動のハッピーエンドの映画らしく、最後は 「刑務所に行くのイヤ」 「アナタと一緒にいたいの」 とヒロインがつぶやいて主人公の夫に方を優しく抱かれながらスクリーンの奥に消えていく。 エンドタイトル。 ・・・という風になっている。 原作は、ウィンストン・グレアムであるが、流石巨匠ヒッチコック。 このような男女の間の心理劇を、それもロマンチックに描かせたら映画監督としてはピカ一と思うのであるがいかがであろうか。 その上画面の絵画的美しさと作品の完成度の高さの為か、何度観ても飽きない。 余談であるが、やはり名作の条件の大きなもののひとつは繰り返して観て飽きないものと、その画像の絵画的バランス美と思えるのであるが、近頃はこのような作品はメズラシイものとなったように思える。 バランス美の欠落という問題で言えば、最近の人々のファッションにも言えるような気がする。 美よりも流行なのだ。 個人的にはすべからく「流行は決して美を上まわらない」・・・ようにしている。 ありがとうございました 追記 ヒッチコック映画の男女はいつもとてもカッコイイのであるが、特に男性のスーツの着こなしはいつも秀逸である。 中でもショーン・コネリー、ケーリー・グラントなど当時のファッション雑誌のモデルさながらのカッコヨサである。 濱田朋久 | |
