コラム[ひとくち・ゆうゆう・えっせい]

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■ トラフィック2008. 9.11

スティーブン・ソダーバーグ監督の同名の映画が、アカデミー賞をいくつかを取って結構傑作と思うが、日本ではあまりヒットしなかったそうだ。
作品の出来映えは素晴らしかったが、場面の変化がめまぐるしくストーリー展開については何回か見ないと何のことか解らない。
外国映画の場合、言葉の問題もあったりして複雑な物語では少し難解なのかも知れない。

何となく心に残る映画であったので、久々にレンタルビデオ屋さんから借りてきて観たが、やっぱり面白かった。
特に助演のベニチオ・デル・トロが良い。
名前の通りヒスパニック(スペイン系)の男優で、体も大きくラテン系の濃い目の顔とあいまって結構存在感のある男であるが、この映画での役どころがとても素敵である。

「トラフィック」と言う言葉は、一般には通路とか交通と言う意味であるが、恐らく非合法の薬物や武器や人身売買の「密輸ルート」を示す隠語であろうと思われる
「○○トラフィック」と言う題名を冠した密輸犯罪映画がいくつか出ている。

件のソダーバーグ監督の「トラフィック」は、アメリカとメキシコの間の麻薬ルートを題材にした映画であるが、アメリカと明記しこの場面がアメリカは「青」、メキシコは「黄」と画面に色が入れてあって複雑なストーリー展開を分かりやすく表現しようとした試みが見られるが、これは思わぬ芸術性を高める効果もあったようだ。

最も魅力的なシーンはと言うと、件のベネチオ・デル・トロの出演シーンがとても良い。
いかにもつつましいメキシコ人の独身の警察官の役どころであるが、色々な難題やトラブルに対してクールに淡々と処していくのにもかかわらず、その心根がとても感動的な程「優しい」のである。
アメリカの捜査陣の協力依頼をわざわざ公衆プールで引き受ける時のシーンが筆者にとっては圧巻であるが「金が欲しいのだろう!?」というアメリカの捜査官の推測に対して、夜の街を明るく照らす「野球場の照明」を取り引きの条件にするところが凄い。
その上子供達が楽しい野球に興じることができれば、麻薬とかその他諸々の犯罪に手を染めることは無いだろうという目論みというか意図を持った無私の要求であったので、アメリカの捜査官を驚かせて、この警官は賄賂も受け取らず公僕というものの本分を全うしているというのが逆に意外性として面白いところである。

ラストは明るく照らされた夜の野球場で楽しそうに野球に興じる子供達を見守るいかにも満足気なベネチオさん演じるハビエール刑事の顔が写し出される。
ドロドロとした欲望と快楽の世界に咲いた一筋の光明を見るような心に残るラストシーンである。

これは何回見ても良い気分に浸れるので、映画を通じて流れる残酷な暴力シーンやとても解決できそうもない人間の社会の構造上の暗部を一気に吹き飛ばしてくれる、ささやかで庶民的で爽やかな静かな感動を憶えるシーンである。
筆者はモチロン麻薬という薬物を自らに使用したことは無いが(これは我が日本国では極めて重大な犯罪である)、この薬物を使用すると極めて深いウットリするような陶酔感と多幸感を得られるようであるが、そのあたりの感覚への描写がいかにも本物を使ったのではないかと思えるくらいに上手に描いてあったが、この薬物の薬効はともかく人間の脳と心と肉体を著しく害するので安易に使用するべきではない。

ひとつには脳内麻薬(エンドルフィン)が出にくくなるからだ。
以前にも書いたが、人間が生きていくには快楽が絶対的に必要であるそうだ。
その「トラフィック」は、実は私達の脳の中にもある。
欲望とか感情とかと結びついて、快楽は脳の中のルートを通じて電気的に興奮させ、さまざまな快楽を人間にもたらす。
それは例えば、性欲であり、食欲であり、攻撃欲であり、創造欲であるが、最も人間の人間らしい快楽と言えばこの「トラフィック」の中のハビエール刑事が演じて見せた「他者を純粋に喜ばせる」とおいう無私の行為の中に存在し、この快楽というのは一生とも永遠にとも永らえられ、静穏であるが長くつづく至福の快楽を人間の心にもたらす。
このことは過去の偉人達がそれを示してくれるが、私達平々凡々人達は目先の日常的な瞬間的で退廃的な快楽の方をついつい選択してしまうようだ。

また、たとえ瞬間的な快楽でもゆっくり味わうことのできるものの方がはるかに長く深くその喜びを享受できるが、それは普通どちらかというと禁欲とか忍耐とかを通過しなければ決して得られない。
それを創造的快楽と筆者は呼びたいと思う。

人生において創造的快楽の通路、つまり「トラフィック」を見い出し、その道も何度も好きなように往来できる人々を人生の勝利者と言えるのではないかと思える。
そこには実は富も権力も名誉も地位も不安である。
そのことを示してくれる表題のアカデミー受賞映画である。
是非一見を。

追記
創造的快楽と、薬物による悲惨な瞬間的な快楽の両方の末路をわずか2時間半の映画の中に観てとることができる。

ありがとうございました

たくま癒やしの杜クリニック
濱田朋久


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