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■ 話せば分かる・・・ということはない | 2008. 7.18 |
養老孟司先生の「バカの壁」は大ベストセラーになったが、内容のエッセンスはこのことであろうと思う。 人間のコミュニケーションは、大部分が普通言葉を通じて行われているようであるが、日本語という言葉が通じているように一瞬思えるが、話したことが全部通じているかというとそんなことは滅多にないように思える。 このことは易学などで厳然としてある「星」ごとの性質の差もなどもあって、西洋医学的に人間をすべて一様なものと仮定して行われる精神的分析と心理学の限界がどうしても生じてしまうひとつの理論的背景になっている。 つまり、どうしても理解し合えない者同士というのが存在していて、それは主に男女であり、夫婦であり、親子であり、兄弟であり、恋人同士である。 人間が果たして言葉だけで通じ合うことができるかという大命題については完全に「否」とも言い切れず、「是」とも言い切れない。 通じ合うこともあるし、通じ合わないこともある。 相手を見て法を説けとは昔からよく言われているが、キリストとか釈迦のようなレベルの賢人になると、相手によって同じ内容を違う表現や言葉で伝えることができたらしいが、筆者のような凡人愚人にとってそれは至難の業であるので、どうしても同じ言葉や同じ表現を相手にぶつけてしまって大失敗することがままある。 抜群の交渉力を誇る我が組織の凄腕ネゴシエーターの人などは、相手に対して矢のような言葉を発して抑え込むか、懐に入れて手なづけるか、全く沈黙するか等して交渉を有利にすすめることができるが、筆者のようなただの街医者の分際ではそんな曲芸じみた芸当はできる筈も無く、ただただ舌を巻くだけである。 総合的な人間力についてはとても敵わないなぁといつもつくづく思うのであるが、天は二物を与えず、彼の人は医者ではないので医療はできないし、筆者はただ自らの生業にひたすらコツコツと精勤するだけである。 やはり、不器用な方だと思えるので、最近「話し合い」の場にはあまり出ないように心がけているし、もしかしてそのような場面に遭遇した時には「話し合わない」という手段を取ることもある。 これは、北方領土の問題でロシア側が取った手段の一つからのヒントで、その問題の「話し合いのテーブル」に最初から着席しないという少し卑怯な手段であるが、或る意味素晴らしい結果を残している。 何せ日本の北方領土は今でも相変わらず、ロシアのものであるということがこの事実をありありと物語っている。 京都大学の教授で国際政治学の専門家である中西輝政氏の言によれば、「国際政治学や外交の真髄とは何かというとそれは“いかに上手に嘘をつくか”」ということだそうである。 筆者もあまり人の倫として嘘はつきたくないので交渉ごとというものは避けているが、結果として「話し合い」はしないようにしている。 率直に話し合うなどという暴挙で物事を台無しにしたことが山ほどあるので、最近の金言は極めて陳腐な諺であるが「災いは口より出ずる」というものである。 余計なことを口走ったが為に物事を台無しにすることの方が言葉いたらずや無用な沈黙で被害をこうむるよりはるかに多いような気がする。 話しても分からない人には早々に話を切り上げるという手段も時に大事かも知れない。 何時間もとうとうとまくし立てるように説明して結果的にそれが全くの徒労であった。 つまり、なにも相手が理解してなかったなどということは数えればキリがないくらいにあったように思える。 「話せば分かる」ということは決して無いとまでは言い切れないが、「話せば分かる」ということは意外なほど少ないものであることを理解しておくと無駄な時間とか無用の争いとか不快な後味の残る「話し合い」で嫌な思いをすることを避けることができるかもしれない。 養老孟司先生の研究も中西輝政先生のお説もやはり偉大ではあるのだ。 前者は「話し合い」の不毛さを説いていて、後者は「話し合い」の嘘を見抜いていると言う点で・・・。 ありがとうございました たくま癒やしの杜クリニック 濱田朋久 |