コラム[ひとくち・ゆうゆう・えっせい]

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■ 内科開業医ノートA腹痛2008. 4.22

30年近くの開業医としての経験から、何かしら世の中の残せる少しだけ学問的でないごく実際的な医療知識をここに記してみたい。
もっと深い学問的なもの、30年の経験を越えた医学教科書的な難しい病気については、経験も知識もないので書きもらしがあればご容赦願いたい。
自らの浅学非才を省みずここに挑戦してみた。

腹痛の診断は結構難しいが、頻度の多い例から列挙したい。
@便秘
原因としては1,2を争う程多い。
特に夏場における子供の激しい腹痛などはこれをまず疑う。
腹部レントゲンで糞塊の影を認めたら浣腸をする。
出てしまえば痛みは止む。
後は整腸剤などを気休めに処方して、大量の発汗がなくても夏場でなくても水分補給をこまめに行うことを指示して帰ってもらう。
モチロン急変したら連絡するように伝える。
大人でも結構多い。
やはり腹部レントゲンでガスや糞塊を確認し、大人の場合水分補給を点滴などでしてから浣腸をする。
解決しなければ検査をする。
A胃炎、胃潰瘍
これも頻度は多い。
最近では小学生でもなる。
昔はストレス説が有力であったが、今はピロリ菌の感染が大きな原因である。モチロンストレスが全く無関係ということはない。
暴飲暴食、過労、睡眠不足、小食過ぎなどの背景を尋ねて胃の内視鏡検査、いわゆる胃カメラをして確認する。
胃や十二指腸の内部の変化はさまざまだが、この時に注意すべきは胃癌を見逃さないことである。
胃の早期癌は90%近く適切な治療をすれば治るので、組織検査はためらわずに施行すべきだ。
「疑わしきは罰する」という態度で臨む。
B胃癌
痛みのくる胃癌というのは、胃潰瘍と共存併発しているので、これも何年か経過観察した方が良い。
年1〜2回で充分だが。
スキルス癌と言って粘膜下を侵食するタイプは厄介である。
未分化型の悪性度の高い例も厄介だが、早期に発見し治療すれば治る。
C腸閉塞
これも結構多い。
機能性、器質性があって、器質性の場合大腸癌を考慮しなければならないが、それ程数は多くない。
普通は機能性で、絶飲食と点滴と高圧浣腸、イレウス管などで治る。
D急性虫垂炎
いわゆる盲腸であるが、これも結構多い。
右下腹部の特徴的な圧痛(抑えたときの痛み)と発熱(37.5℃程)と白血球の増加が決め手になる。
慣れた医師なら触診だけで診断できる。
E婦人科疾患
子宮外妊娠。
これは女性なら妊娠の可能性を必ず否定しておく。
嘘をつくと言う可能性もあり、知らずに妊娠ということもあり、常に念頭に置いておく。
卵巣のう腫茎捻転とか子宮付属器炎とかダグラス窩膿瘍とかあるが、これらは殆ど発熱と白血球増加があり、専門家(婦人科)でなくても知っておく必要がある。
F急性膵炎(慢性膵炎の急性増悪)
これも激しい腹痛だが、暴飲暴食、特に飲酒と脂肪食のエピソードがあれば必ず疑う。
絶飲食と点滴と安静で治る。
G膵臓癌
この病気で腹痛があったら普通はアウトだ。
今の医学では殆ど助からない。
腹部超音波とCT、MRなどで見つかるが、見つかっても治せないので知らない方が良いとも言える。
だいたい3ヶ月の余命だ。
H胆のう癌、胆管癌
これも痛みがあって見つかったならGの膵臓癌と同程度の悪性度だ。3ヶ月から6ヶ月で死亡する。
I大腸癌
これは早期なら完治することも多い。
腹痛で来ることも時々あるが、下痢と便秘の交代とか血便とか黒色便とか、何かしらの便通異常を伴うので大腸検査が必ず必要だ。
進行の程度が悪いと肺とか肝臓とかに転移していて意外に厄介だ。
転移があって余命はさまざまだが、1年から2年だ。
早期なら完治する人もいる。
Jその他
(1)小腸の癌
これは極めて稀だ。
小腸には癌を予防する物質があるらしい。
1度だけ診たことがあるが難しい症状だった。
まるでノイローゼのようにしつこく腹痛を訴えていた。
(2)腹筋痛
これは意外と多い。
腹筋も腹部の表面と内腔にある筋肉の“肉離れ”であるが腹筋の体操
<1>足を上げる
<2>上半身を起こす
をしてもらい、腹部表面の筋肉痛か腹腔内の筋肉痛かを見分ける。
鎮痛剤で効果があるが、最も効くのはセルシン(ジアゼパム)だ。
子供の場合1回で治ることもある。
(3)心筋梗塞
これも腹痛、特に「胃の痛み」を訴えて来られるので要注意だ。
閉経後の女性の肥満者や、男性の肥満者、喫煙者、いわゆるメタボの人は必ず心電図を取って経過を厳重に観察する必要があるが、稀なケースだ。
医者のカンでわかるが見逃しも多い。
(4)尿路結石症
これは激しい痛みだ。
ペンタジンとかソセゴンとかの強い鎮痛剤がいる。
点滴で流すか、泌尿器科的に処置をするが大概自然に治る。
安静と輸液で。
(4)めずらしい病気
腸間動脈閉塞症
腹部大動脈破裂
極めてマレであるが、一般開業医には滅多に来られない。
救急病院の救急外来に多い。

まとめ
最も多いのが1便秘と2胃腸炎だ。
熱やカゼ症状とダブれば3感染性胃腸炎という診断だ。
細菌性、ウィルス性とわかれば、どちらにも抗生剤は処方しておくと良い。
その他悪性の疾患については、常に念頭には置くが頻度は多くない。
胃腸科を標榜する病医院ならこれらすべての病気をアタマに入れて診断はするが、大概1,2,3病か次にくるのが胃潰瘍か尿路結石だ。
最も注意すべきは、実は心筋梗塞だ。
適切な処置をしないと急激な死に至る。
その他の疾患は悪性であってもあわてることはない。
急性虫垂炎も診断はカンタンだが、決して見逃してはいけない。
いわゆる急性腹症として緊急な処置を要する。
ただ現在はあまり手術例はない。
抗生物質の効果があがって来た為か、外科医が何らかの理由で手術をしたがらなくなった為か・・・。
ノイローゼも多い。
心因性腹痛と言うのは経患が長く、あちこちの病院をまわる。
うつ病での腹痛もあるがあまり多くはない。

まとめのまとめ
アタマの中で立体的に整理するには、まず胃とか腸の管腔臓器、次に膵臓肝臓の実質臓器、次に心臓をはじめ血管系の病気、次に神経系の病気(脊椎の病気で腹痛もある)、次に心の病気(ノイローゼ、うつ病)だ。

急性か慢性か
悪性か良性か

これをただちに判断する。
急性で悪性と言ったら、まず心筋梗塞をアタマから離さない。
特に胃のあたりの痛みがあったら数は多くないが必ず心電図か血液検査はしておくこと。
白血球の増加が決めてになる。
それと血圧と年令だ。
年令と頻度、つまり発症率については最も大切な診断思考要素だ。

あとがき
最も難しい症状から入ったが、最初に難しいモノに挑戦すると後が楽だ。

追記@
腸重積という子供特有の病気がある。これは主に乳幼児でいわゆるレンガ色の便が特徴で1例だけ診た。
追記A
服毒というのもわけのわからない激しい腹痛を訴えて厄介だ。農薬を自殺目的で飲んだ男性がいたが1〜2日亡くなった。結構致死率が高い。自他殺両方あり警察を呼ぶ必要がある。
ありがとうございました

たくま癒やしの杜クリニック
M田朋久



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